ミャンマー「大統領の上に立つ」スーチーと国軍の「つばぜり合い」

春日孝之
執筆者:春日孝之 2015年11月27日

[ヤンゴン発] ミャンマーで11月8日、2011年3月の民政移管以降、初めての総選挙があり、アウンサンスーチー氏(70)率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」が圧勝した。政権移行プロセスが順調に進めば、来年3月末か4月初めにNLD政権が誕生する。しかしスーチー氏は憲法上、親族が外国籍のため国家元首の大統領になれない(憲法59条F)。このため彼女は投票日を前に、NLDが選挙に勝利して政権を握ることになれば「私が大統領の上に立つ」と公言した。憲法を超越した立場で自分が政権を動かすのだと宣言したわけだ。こうした動きを、絶大な政治権力を保持し「憲法の守護者」を任じる国軍が果たして容認するのか、ミャンマー政局の当面の焦点である。

 

大統領は傀儡か

 スーチー氏が「大統領の上に立つ」と発言したのは投票日を3日後に控えた11月5日。選挙での「勝利」を確信したスーチー氏は、最大都市ヤンゴンの自宅庭で内外メディアを前に「(大統領には)NLDの方針に沿って取り組む人物を充てる」と語った。スーチー氏はNLDという個人企業のワンマンCEO(最高経営責任者)にも例えられており、NLDの方針とは、すなわちスーチー氏の方針である。「トップが全ての重要な政策を決めるのは当然だ」とも述べた。大統領はいわば傀儡。「違憲ではないか?」と問われると、「憲法に(そうした地位を禁じる)規定がないので何の問題もない」と退けた。一連のやり取りはミャンマーの国家システムやそれを支える国軍への「大胆な挑戦」とも受け取れる。
 現憲法は軍政期の2008年に制定された。軍政が03年に公表した「民主化」に向けた7段階のロードマップに沿ったもので、民政移管を視野に国軍が政治関与を続けることを保障するさまざまな仕掛けが施されている。国会での軍人議員の存在もその1つだ。国会は上院(定数224)と下院(同440)で計664議席あるが、このうち4分の1の166議席は国軍最高司令官が任命する軍人議員が占める。スーチー氏が「民主化への核心」だと主張する憲法の核心部分を改正するには、総議員の4分の3超の賛成が必要(憲法436条)である。

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執筆者プロフィール
春日孝之
春日孝之  1961年生まれ。1985年、毎日新聞社入社。95~96年、米国フリーダムフォーラム財団特別研究員としてハワイ大学大学院(アジア・中東史)留学。ニューデリー、イスラマバード、テヘラン支局などを経て2012年4月よりアジア総局長。現在ヤンゴン支局長兼務。アフガン、イラン、ミャンマー報道でそれぞれボーン・上田記念国際記者賞候補。著書に『アフガニスタンから世界を見る』、『イランはこれからどうなるのか―「イスラム大国」の真実』、『未知なるミャンマー』。
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