2016年北朝鮮「新年の辞」を読む(下)「水爆実験」という悪手

 「2016年北朝鮮『新年の辞』を読む(下)」の最終校閲作業をしていると、北朝鮮が6日に「水爆実験」を実施したというニュースが飛び込んできた。
 本サイトの「北朝鮮『2つの事件』(下)増すばかりの『核の脅威』」(2015年12月23日)で報告したように、筆者は北朝鮮の核の脅威が増大しており、北朝鮮が核実験や事実上の長距離弾道ミサイルである人工衛星の打ち上げをする可能性があると指摘してきた。
 しかし、その時期は5月の党大会から米大統領選挙が行われる11月の間で、党大会までは中朝関係をはじめ国際関係を考慮して、北朝鮮は挑発路線を避けるのではとしてきた。北朝鮮が今年核実験を実施する可能性があるというところまでは当たったが、その時期については見通しを誤ったと言わざるを得ない。
 筆者は「2016年北朝鮮『新年の辞』を読む(上)」で、金正恩第1書記が「新年の辞」で「核抑止力」や「並進路線」について言及しなかったのは外部への戦術的な配慮ではあるが、北朝鮮が核開発や並進路線を放棄したことではないと指摘した。その指摘は当たったが、経済建設や人民生活の向上に力点を置いた「新年の辞」と、今回の核実験は相反する方向性を持っている。
 筆者は金正恩第1書記を含め北朝鮮指導部は当初、核実験をこのタイミングで実施することは考えていなかったが、敢えて前倒しした可能性があると考える。「新年の辞」はかなり前から準備したものをそのまま発表し、年末に核実験実施の判断をしたようにみえる。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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