深まる「ロシア経済危機」で注目の安倍首相「外交調整力」

名越健郎

 NY原油市場が1バレル=26ドル台と12年ぶりの安値を付けた1月下旬、ロシアのグレフ貯蓄銀行総裁(元経済発展相)は「石油の時代は終わった。ロシアは競争に敗れ、負け組に属する」と述べた。クドリン元財務相は「原油価格は1バレル=16ドルまで下落する可能性がある。通貨ルーブルは暴落し、インフレが昂進する」と警告した。英紙フィナンシャル・タイムズ(1月25日)は、「プーチン政権の最初の2期で自由化推進派だった2人の元閣僚のどちらかを首相に起用することが必要だ」と書いたが、秋に下院選を控えるロシアは「内政の季節」に入りつつある。ロシアの経済苦境は、日露外交にも影響しそうだ。

原油価格10数年周期説

 旧ソ連・ロシアの勢いを左右する原油価格は、ほぼ10数年のサイクルで高騰と下落を繰り返した。1973年、イスラエルとの第4次中東戦争が起きると、アラブ産油国は石油輸出規制に着手。原油価格は一気に高騰し、「石油ショック」を招いた。
 原油高の時代は10数年続いたが、85年からサウジアラビアが大増産し、下落に転じた。1979年のソ連軍アフガニスタン侵攻を受けて、レーガン米政権はソ連経済に打撃を与えるため、アフガン侵攻に激怒していたサウジと連携。原油価格は下落した。85年に誕生したゴルバチョフ政権のペレストロイカが失敗し、ソ連邦崩壊につながったのは、原油収入が激減し、国民生活が悪化したからだ。新生ロシアの市場経済改革が混乱したのも、原油収入が少なかったためだ。原油安時代は約15年続き、1バレル=10ドルを切った98年、ロシアはデフォルト(債務返済不能)に陥った。
 原油価格は21世紀に入って、中国など新興国の需要増やイラク戦争などの地政学リスクを受けて急上昇し、08年には1バレル=147ドルの最高値を付けた。この原油価格高騰の恩恵を受けたのが2000年に登場したプーチン大統領だった。プーチン政権はエネルギー産業の国家統制を強め、膨大な石油収入を国庫に集めて給与や年金などバラマキに使用し、ロシアは史上初めて消費社会入りした。原油高騰は「強いロシア」の原動力で、14年のウクライナ介入、15年のシリア空爆につながった。
 だが、原油価格は14年秋から再び下落し、16年の年明けに30ドルを割った。原油安に伴いルーブルも1月21日、1ドル=85ルーブルと一時最安値を付けた。ロシア経済はプーチン時代に資源依存体質を一段と強めただけに、今後原油安が長期化すれば、「弱いロシア」に転落することになる。

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執筆者プロフィール
名越健郎
名越健郎 1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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