「インドネシア高速鉄道」をめぐる混乱(下)中国のしたたかさ

執筆者:川村晃一 2016年2月16日
エリア: アジア

 起工式開催の過程で表面化したもう1つの問題が、インドネシア政府とKCIC社の間で締結される事業契約の内容をめぐるものであった。起工式後の1月29日に調印される予定だった事業契約は、両者の間で合意に到らない点が残されたため、いまだに締結されていない。

 両者の見解が対立している点は、(1)50年とされている事業契約の開始時点を契約調印時からとするか、運行開始時とするか(2)独占的営業権を与えるか(3)政府保証をするか、の3点である。

 第1の点については、KCIC社が運行開始時から50年の契約とすることを求めているのに対して、政府は契約の調印時からを主張している。事業契約の開始を調印時から50年とすると、無収入の工事期間が契約期間に含まれることになり、KCIC社にとっては大きな損失となる。一方、政府の意図は、工事が遅れていつまでも開業できないという事態を起こさせないところにある。中国にはマニラでの鉄道建設で工事遅延のすえ事業凍結に到った「前科」があるし、インドネシアもジャカルタで建設予定だったモノレール計画が工事の中断と再開を繰り返したあげく、10年あまり経って結局は中止になったという経験がある。政府は、予定どおりに高速鉄道の建設を終わらせることを目指しているのである。

カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
川村晃一(かわむらこういち) 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 海外調査員(インドネシア・ジャカルタ)。1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、ジョージ・ワシントン大学大学院国際関係学研究科修了。1996年アジア経済研究所入所。2002年から04年までインドネシア国立ガジャマダ大学アジア太平洋研究センター客員研究員。2024年からインドネシア国家研究イノベーション庁(BRIN)客員研究員。主な著作に、『教養の東南アジア現代史』(ミネルヴァ書房、共編著)、『2019年インドネシアの選挙-深まる社会の分断とジョコウィの再選』(アジア経済研究所、編著)、『新興民主主義大国インドネシア-ユドヨノ政権の10年とジョコウィ大統領の誕生』(アジア経済研究所、編著)などがある。
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