「岸田訪中」があぶりだした「李克強」の落日

執筆者:村上政俊 2016年5月10日
エリア: アジア

 4月29日から3日間の日程で行われた、岸田文雄外務大臣の中国訪問。4月30日、北京で李克強国務院総理、楊潔篪国務委員、王毅外交部長との一連の会談に臨んだが、習近平国家主席との会談は組み込まれなかった。以前に論じた通り、日本の外務大臣の「格」と背負う「国力」からすれば、中国側は国家主席との会談を用意すべきところ、結果的に国務院総理が面会者となったわけだが、それには様々な事情があった。

対日外交、経済なら国務院総理

 第1に、会談相手を李克強とすることの理由付けが容易で、党内や世論への説明に苦労しないのが大きかったことだ。まず、国務院総理が対日外交に関与してきたという経緯がある。日本、中国、韓国3カ国が持ち回りで主催している日中韓サミットの出席者は国務院総理であり、今年は日本での開催が予定されていることから、李克強の就任後初めての訪日が今年後半にもあるのでは、と取り沙汰されている。これに向けた地ならしのために会談したとすれば理屈が立つ。
 また経済政策において、国務院総理に役割が与えられている点も見逃せない。外交政策の指導にあたる「外事工作領導小組」の組長には国家主席が就き、国務院総理はメンバーですらないのだが、経済政策の指導にあたる「財経領導小組」の組長には伝統的に国務院総理が就いてきた。世界第2、第3の経済大国をそれぞれ代表して、今後の世界経済について討議したとすれば、これも理由として受け入れやすい。会談で「両国の喫緊の課題である世界経済の安定と発展に向けた協力を含め、特に経済面の協力強化について一致」したのには、こうした背景がある。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
村上政俊(むらかみまさとし) 1983年7月7日、大阪市生まれ。現在、同志社大学嘱託講師、同大学南シナ海研究センター嘱託研究員、皇學館大学非常勤講師、桜美林大学客員研究員を務める。東京大学法学部政治コース卒業。2008年4月外務省入省。第三国際情報官室、在中国大使館外交官補(北京大学国際関係学院留学)、在英国大使館外交官補(ロンドン大学LSE留学)勤務で、中国情勢分析や日中韓首脳会議に携わる。12年12月~14年11月衆議院議員。中央大学大学院客員教授を経て現職。著書に『最後は孤立して自壊する中国 2017年習近平の中国 』(石平氏との共著、ワック)。
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