国連イラン制裁の現場から(7)武器禁輸:安保理決議の定義

鈴木一人
執筆者:鈴木一人 2016年5月11日
エリア: 中東

 前回はイランに対する武器禁輸は、単に核・ミサイル開発を阻止するだけでなく、中東地域における重要なアクターであり、地域の紛争に様々な形で関与するイランの役割を制限するということを目的としていることを明らかにした。
 ここでは、具体的に国連安保理がどのような形でイランの武器禁輸を実施しているのか、また、イラン核合意によって新たに採択された国連安保理決議2231号でどのように定義されているのか、確認していきたい。

「テロとの戦い」とのジレンマ

 イランの武器禁輸は輸出と輸入で若干の違いがある。
 イランから輸出される武器に関しては「いかなる武器ないし関連物資(any arms or related materiel)」が国連安保理決議1747号で禁止されていた。この「いかなる武器」は、戦闘機や戦車などの重火器だけでなく、小型武器であるライフルや拳銃まで含むものである。また「関連物資」には、兵器の装備を補充するための部品や燃料、弾薬なども含まれる。
 短い文ながら、包括的に武器輸出を禁じ、ライフルや手榴弾などの小型武器であっても認められないため、イランからの武器輸出は極めて困難な状況と見られていた。しかし、中東における地域紛争、特にイラク・シリアにおける「イスラム国(ISIS)」との戦いにイランが積極的に関与し、イランから部隊を派遣することは、部隊と共に武器も移転されることになる。そのため、国連はある種のジレンマに陥ることになった。
 一方ではISISをテロリストと認定し、ISISとの戦いは国際の平和と安全のための最重要課題とみなされる一方、そのISISと戦うイランの関与は安保理決議違反であり、阻止しなければならない問題となったからである。とりわけ、イラク国内でのISISとの戦いでは、イラク政府軍の規律の乱れや戦闘意欲の低さから、ISISの勢力拡大を許してしまった背景がある。
 こうしたイラク政府軍を横目に、ISISとの戦いの正面に立ったのはクルド人部隊であるペシュメルガと、イラクのシーア派民兵であった。そしてペシュメルガとシーア派民兵を実質的に組織し、指導したのは、前回紹介したイランの革命防衛隊の遠征部隊であるクッズ部隊であった。イランは一貫してクッズ部隊の派遣を公的には認めてはいなかったが、イラクのシーア派やペシュメルガの人達が積極的にイランのクッズ部隊のソレイマニ司令官と一緒に撮影した写真などをソーシャル・ネットワークに掲載したため、その居場所や役割は誰の目にも明らかだった。
 このように、安保理決議違反ではあっても、実質的にISISとの戦いに不可欠な役割を担うイランの存在を否定することもできないため、国連はジレンマを抱えながらも黙認する形となった。

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執筆者プロフィール
鈴木一人
鈴木一人 すずき・かずと 北海道大学大学院法学研究科教授。1970年生まれ。1995年立命館大学修士課程修了、2000年英国サセックス大学院博士課程修了。筑波大学助教授を経て、2008年より現職。2013年12月から2015年7月まで国連安保理イラン制裁専門家パネルメンバーとして勤務。著書にPolicy Logics and Institutions of European Space Collaboration (Ashgate)、『宇宙開発と国際政治』(岩波書店、2012年サントリー学芸賞)、『EUの規制力』(日本経済評論社、共編)、『技術・環境・エネルギーの連動リスク』(岩波書店、編者)などがある。
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