朝鮮労働党大会「設計図なき戴冠式」(4)
金与正「中央委員」人事の意味

平井久志
執筆者:平井久志 2016年5月20日
カテゴリ: 国際 政治 社会
エリア: 朝鮮半島

 党の軍事指導機関である党中央軍事委員会のメンバーも大幅に改選された。金正恩(キム・ジョンウン)政権になってからは軍事的な決定は国防委員会よりは党中央軍事委員会で行っており、ここでも党の役割が強化されているが、そのメンバーに大きな変化が生まれた。2012年4月の第4回党代表者会では崔龍海(チェ・リョンヘ)氏が副委員長に選出されたが、今回の党大会では崔龍海氏は党中央軍事委員会からは外れ、副委員長ポストも廃止されたとみられる。党中央軍事委員会は以下の12人で組織された。
 委員長 金正恩党委員長
 委員  黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長 朴奉珠(パク・ボンジュ)首相 朴永植(パク・ヨンシク)人民武力部長 李明秀(リ・ミョンス)軍総参謀長 金英哲(キム・ヨンチョル)党統一戦線部長 李萬建(リ・マンゴン)党軍需工業部長 金元弘(キム・ウォンホン)国家安全保衛部長 崔富一(チェ・ブイル)人民保安部長 金京玉(キム・ギョンオク)党組織指導部第1副部長 李永吉(リ・ヨンギル)党政治局員候補 徐ホンチャン人民武力部第1副部長
 最初に目に付くのは朴奉珠首相が党中央軍事委員会に入ったことである。それも金正恩党委員長、黄炳瑞軍総政治局長に次いでナンバー3として同委員会入りした。北朝鮮は今回の党大会で経済建設と核開発を同時に進める並進路線を再度確認した。その意味で、経済建設を進める上で、民間経済と軍事経済の発展をどう進めるのかが問題になってくる。朴奉珠首相は2000年代初めに経済改革を進めた際には軍部など保守派の攻撃を受けて首相辞任に追い込まれた。首相が経済政策をちゃんと運営するためには軍部など保守派を押さえ込む権力が必要になる。民間経済と軍事経済の調整という意味でも、朴奉珠首相が常務委員とともに党中央軍事委員になったことには意味がありそうだ。
 党中央軍事委員会は第4回党代表者会以降も人事があり党大会前の正確な構成は分からないが李炳哲党第1副部長、金洛兼(キム・ラクキョム)戦略軍司令官、金明植(キム・ミョンシク)総参謀部副総参謀長、崔ヨンホ航空・反航空司令官(航空司令官)、尹正麒(ユン・ジョンリン)護衛司令官の5人は委員会から外れた。
 韓国メディアでは、金洛兼戦略軍司令官が委員会から外れたのは大会前に中距離弾道ミサイル「ムスダン」が3回にわたって発射実験に失敗したからではないかと報じた。
 しかし、「ムスダン」が実戦配備されたのは2007年頃からで、金洛兼司令官に直接的な責任はないように思われる。今回委員会を外れた5人を見れば司令官クラスであり、党中央軍事委員会は現場の司令官クラスは外し、その上の職責にあるメンバーで構成されているようにみえる。
 むしろ、元々は軍人ではない黄炳瑞軍総政治局長を含め朴奉珠首相、李萬建党軍需工業部長、金京玉党組織指導部第1副部長という非軍人の4人が含まれたことに意味がありそうだ。ここでも党の一元支配の強化がみられる。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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