日露首脳会談「ソチの35分間」に何があったか

名越健郎
執筆者:名越健郎 2016年5月23日
エリア: ロシア 日本
5月6日、ロシア南部ソチで、安倍晋三首相(右)と握手を交わすプーチン大統領 (C)AFP=時事

 安倍晋三首相は5月6日、ロシア南部ソチでプーチン大統領と非公式会談を行った後、「北方領土問題についてアイスブレイク(砕氷)ができた」「新たな発想に基づくアプローチで交渉を進めることで一致した」「突破口を開く手ごたえを得た」などと極めて前向きな発言をした。首相が「突破口への手ごたえ」と言う以上、ロシア側の対応に何らかの変化があったかもしれない。両首脳がさしで話した35分間の会談内容は一切公表されておらず、各種の憶測を呼んでいる。

ロシアの対応に新味なし

 日本側の背景説明によれば、会談は夕食を挟んで3時間10分に及び、プーチン大統領は冒頭、エネルギー開発や肥料工場、温室野菜工場など日露間のこまごまとした事業に触れ、30分あまり話し続けたという。ロシア側にとって、G7議長を務める安倍首相の訪露は国際的孤立の脱却をアピールする狙いがあるが、冒頭発言は対日政策に新しいアプローチはなかったことを示唆している。
 うなずきながら聞いていた首相は話題を領土問題に変え、「これまでの発想にとらわれない新たなアプローチで停滞を打破し、立場の違いを克服すべきだ。賛同してくれるなら、2人きりで話し合おう」と語りかけ、1対1の会談を求めた。首相は過去の会談でもしばしばさしの会談を求め、そのたびにラブロフ外相がその場に残ろうとするが、大統領は退席を指示し、通訳だけの会談が35分間続いた。再び全体会議に戻ると、大統領は「良い話し合いができた」と述べたという。
 首相はその後、医療協力、都市開発、中小企業育成、エネルギー、極東振興など日本が得意とする8項目の協力プランを提示し、ロシア側は「高い評価と賛意」を表明。この後、漁業協力や安全保障協力、文化・人的交流、シリア、ウクライナ、北朝鮮などの国際情勢を幅広く討議し、ロシア側は外相・国防相の2プラス2協議の再開を提案した。会談終了後に首相は記者団に対し、上記の発言のほか、「未来志向の日露関係を構築する中で領土問題を2人で解決する考えで一致した」などと述べた。会談の展開から見て、35分間の膝詰め会談で安倍首相が重要発言をし、大統領がそれを大筋で受け入れたということのようだ。

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執筆者プロフィール
名越健郎
名越健郎 1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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