逆張りの思考

割れたスマホは時代の生き証人

執筆者:成毛眞 2016年5月26日
エリア: アフリカ アジア

 画面にひびが入ったスマートフォンを使っている人を時々見かける。あまりに無残なその様子から、落としたのだなとすぐ分かる。
 堅牢に作られているはずのスマホの画面でも、高所からの落下には弱いところがある。特に、スマホの角に与えられた衝撃は、画面の破損に直結する。もしもスティーブ・ジョブズがiPhoneを発明しなければ、割れた画面で検索をしたりゲームをしたりする人が、こんなにこの世の中に溢れることはなかっただろう。
 多くのエンジニアは、画面割れ問題を解決しようとするため、いかにして割れない画面を実現するかに頭を悩ませるだろう。エアバッグのような、何かにぶつかりそうになったら衝撃を緩める機能を持たせようと考えるのは、ごく一部の人だけに違いない。
 しかしごく一部であっても、広い世界を探せばそれを構想するメーカーもある。アップルだ。アップルはiPhoneが落下したときにそれを検知し、本体の四隅のバンパーを張り出して、落下の衝撃から画面を守る機能を考えだし、その特許を取得している。それだけでなく、落下するときに、角や画面から落ちないよう、猫のように身を翻して「着地姿勢」を取る特許も取得したという。
 手で持っている高さ、またはデスクの高さなどからの落下を検知し、落ちきる前にバンパーを張ることが可能になったのは、落下を検知する仕組みが発達したからだ。
 スマホはセンサーの塊である。地図上のどこに位置するのかを検知するGPSセンサー、ユーザーが画面を縦にしているか横にしているかを検知するジャイロセンサー、どれくらいの速度で動いたかを検知する加速度センサー、高度や気圧が分かる気圧センサーなど、もりだくさんだ。
 気圧センサーなど、気象予報士や登山家でない限り使わないと思われがちだが、さにあらず。実は落下による破損防止にも、この気圧センサーが大活躍しそうなのだ。
 富士山の山頂では飯が炊けないと言われてきた。気圧が低く、そのせいで水が100度にならないうちに沸騰してしまうので、炊飯に支障を来すからだ。富士山頂の気圧は、海抜0メートルのそれと比べ、0・36気圧ほど低い。
 富士山ほどではなくても、高地の気圧は低地よりも低い。テーブルの上の気圧は床の上より低い。もし急激に1メートル分の気圧が上がったら、それは落下しているせいだ。
 今どきの気圧センサーはそこまで瞬時に分かる。だから、四隅と画面を避けて着地するように、指令を出すことができるのだ。センサーは今、ここまで高度化している。
 正確に言えば、以前から高度なセンサーはあった。しかし、非常に高価なものでもあった。だからなかなか普及が進まなかったのだが、スマホがそれを取り入れた。そのために大量に生産され、大量に出荷されることで、センサーの価格が劇的に下がったのである。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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