小説・めぐみ園の夏

小説・めぐみ園の夏(5)

高杉良
執筆者:高杉良 2016年5月28日
エリア: 日本
GHQ占領下の当時、世の中は騒然としていたが……(C)時事

 

【前号までのあらすじ】

母の百子が若い男を連れ、めぐみ園を訪れた。2人の様子に亮平は胸騒ぎがする。翌月のある日、学校から戻ると百枝の姿が消えていた。知らぬ間に養女に出されていたのだ。亮平は己の無力さと幼い妹の未来を思い、ひとり涙を零すのだった。

 

第3章 暴力少年(承前)

 

   1

 

 母の百子(ももこ)が客間でお琴を奏でている。それも『さくらさくら、弥生の空は……』と鼻唄まじりだ。小紋の和服姿が眩しいほど美しかった。

 聴き入っているのは亮平(りょうへい)、伯父の杉田保(すぎたたもつ)、作家の平田小六(ひらたころく)の3人。

 亮平は野球のユニホーム姿で、帽子とグローブを握り締めて、座布団に正座していた。

 伯父は軍医の制服、平田はよれよれのオーバーコート。時代も季節も不明だが、平田がからから笑ったところで目が覚めた。

 百子は静岡市内の旧家で育った。旧制の女学校時代に習い事で箏曲を覚えたという。

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執筆者プロフィール
高杉良
高杉良 1939(昭和14)年、東京生まれ。科学専門紙記者、編集長を経て1975年『虚構の城』で作家デビュー。以来、経済界全般にわたって材を得、綿密な取材によって徹底したリアリティにこだわった問題作、話題作を次々に発表している。主な作品に『小説 日本興業銀行』『労働貴族』『広報室沈黙す』『燃ゆるとき』『濁流』『金融腐蝕列島』『不撓不屈』『虚像』『第四権力』『小説ヤマト運輸』などがある。
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