北朝鮮の外交攻勢(上)「並進路線」をめぐる中国との駆け引き

執筆者:平井久志 2016年6月10日
エリア: アジア

 北朝鮮は5月6日から9日まで36年ぶりとなる朝鮮労働党第7回党大会を開催した。第7回党大会は金正恩(キム・ジョンウン)氏を朝鮮労働党委員長に推戴し、その独裁体制を強化し、経済建設と核開発を同時に進める「並進路線」を党の恒久的な路線とすることを決定した。党大会で、金正恩時代の「輝かしい設計図」(金正恩氏の今年の「新年の辞」)が示されたとは言い難いが、金正恩政権は新たなスタートを切った。しかし、核・ミサイル開発を続けるという「並進路線」は国際社会と大きな葛藤を生み出している。金正恩政権は、こうした困難な状況の中で、体制の生き残りをかけて新たな外交攻勢に乗り出した。
 金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長はヌゲマ大統領の就任式に出席するため5月17日から26日までアフリカの赤道ギニアを訪問した。金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長を団長とする代表団は5月21日から28日まで伝統的な友好国であるキューバを訪問した。韓成烈(ハン・ソンリョル)外務省米州局長らは5月28日から30日までスウェーデンのストックホルムで米国側と長時間にわたる非公式協議を行った。
 李洙墉(リ・スヨン)党副委員長は5月31日から6月2日まで中国を訪問し、習近平総書記と会談するなどした。崔泰福(チェ・テボク)党副委員長はベトナム、ラオス訪問のために6月4日に平壌を出発した。党中央委副委員長らを動員した積極的な外交攻勢だ。
 さらに、韓国に対しては党大会後、様々な声明や談話を発表しながら、金正恩党委員長が党大会で提案した南北の軍事当局者会談を繰り返し提案している。北朝鮮の外交攻勢の意味とその内実、さらにはこれに対抗する朴槿恵(パク・クネ)政権の北朝鮮孤立化外交の状況を探る。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
平井久志(ひらいひさし) ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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