逆張りの思考

ゲームは身を助ける

執筆者:成毛眞 2016年6月30日
タグ: 日本
エリア: アジア

 様々な社会活動に、ゲーム的な要素を持たせることをゲーミフィケーションという。この言葉は2010年頃から使われるようになったが、それ以前から、日本にはゲーミフィケーションを取り入れた存在があった。段位制度である。
 柔道でも剣道でも茶道でも華道でも何でもそうだが、誰もが入門した当初は初心者である。ハウツーを教わり経験を積んでいくと、そのお披露目の場と進級試験の機会を与えられて、ほどよく達成感を得られる。これを繰り返しているうち、柔道を習っていない人にとってはあまり意味のない帯の色に極めて高い価値を見出し、黒いそれを目指そうとする。この仕組みがなければ、日々の練習の中でほとんどの人が途中で脱落していくだろう。
 これが成り立つのは、多くの人が共通の目標の下、同じ行為をするからだ。だから、そういった業種業態の企業では、人事評価制度にゲーミフィケーションを応用できる。
 接客業はいい例だ。たとえば、勧めた商品が売れた、「ありがとう」と言われた、あるいは真っ先に電話対応した、5分前に出勤した、急な出勤要請に応じた、はたまた、チームワークに貢献した。
 こういった、誰でも努力さえすれば達成できそうなことをポイント化し、ポイントが貯まったら、バッジにする。5分前出勤を20回行ってトータルで100分になったらバッジといった具合だ。バッジは実際に胸につけられるものでもいいし、今なら、社員専用のSNSで共有してもいいだろう。そして、バッジがいくつか集まったら、昇給させるのである。チームワークに貢献することでバッジがもらえて昇給するとなると、チーム内で談合が始まることも考えられるが、その談合はチーム力の向上に繋がるので、むしろ歓迎すべきことだ。
 これは歩合給と似ているが、本質的に異なる。歩合給の場合は目の前の行為と収入とが直結するので「これでいくら」と計算がしやすいうえ、行う側にプロセスの選択肢がない。しかしゲーミフィケーションでは、ポイントを貯めてバッジ化し、それを集めるという段階を踏むことになるので、行為と金額は直結しないから、取り組む方は気が楽だ。さらに今はどのポイントを重点的に貯めるか、次はどのバッジを狙うかなど、具体的な作戦を個人個人が立てやすくなる。ポイントやバッジを集めるのは単純に楽しいことでもあるので、収入を増やすためだけに辛い努力をしていると感じることが少なくなる。もちろんプレイヤーには、昇給や出世をしないことと引き替えに、ゲームに積極的に参加しないことも認められる。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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