「ポピュリズム」はどこまで広がるか:英国「EU離脱」の本質(下)

国末憲人

 残留を訴える政権や財界の戦略も、最初からピントがずれていた。

 残留派がしきりに強調したのは、経済的な利害である。「離脱すると経済的な損失が大きい」「成長も維持できない」などと、数字を細かに挙げて説得を試みた。

 しかし、庶民の意識を支配しているのは、「もうかるかどうか」というのんきな話ではない。自分たちが感じている不安と不満こそが問題なのだ。EUの規制が自分たちの仕事を妨げているのではないか。移民が職を奪うのではないか。インテリやエリートばかりが恩恵を受けているのではないか――。そのような疑問に比べれば、貿易や経済成長に伴う損得勘定などどうでもいいのである。

 彼らが感じる不安や不満は、必ずしも現実のものではない。しかし、離脱派のポピュリストたちはそこをあおった。UKIPに、保守党の中でもポピュリスト的な傾向の強い前ロンドン市長のボリス・ジョンソンも加わって、盛んに不安をかき立てた。

 ウソやはったりは、ポピュリストの戦略の常道である。彼らは「離脱するとEUに払っている週3億5000万ポンドが浮くので、国民医療サービスに回せる」などとも主張した。これは、投票後に離脱派自身が「本当ではなかった」と認めることになったが、残留派が持ち出してくる経済指標よりもよほどわかりやすかった。大英帝国時代のノスタルジーに訴えるなど、戦略の巧みさは残留派よりも離脱派の方が数段上だった。

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執筆者プロフィール
国末憲人 1963年岡山県生まれ。85年大阪大学卒業。87年パリ第2大学新聞研究所を中退し朝日新聞社に入社。パリ支局長、論説委員を経て、現在はGLOBE編集長、青山学院大学仏文科非常勤講師。著書に『自爆テロリストの正体』『サルコジ』『ミシュラン 三つ星と世界戦略』(いずれも新潮社)、『ポピュリズムに蝕まれるフランス』『イラク戦争の深淵』『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』(いずれも草思社)、『ユネスコ「無形文化遺産」』(平凡社)、『ポピュリズム化する世界』(プレジデント社)など。
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