北朝鮮「最高人民会議」(中)国家体制「改編」の注目点

平井久志
執筆者:平井久志 2016年7月6日
エリア: 朝鮮半島

 金正恩(キム・ジョンウン)党委員長は最高人民会議第13期第4回会議で「国防委員会第1委員長」から「国務委員長」に職責名を変えて「朝鮮民主主義人民共和国の最高領導者」(憲法100条)となった。憲法改正では、国務委員長の任務と権限を規定した憲法103条に、これまでは国防委員長にはなかった権限を新たに付与した。103条第7項に「戦時に国家防衛委員会を組織、指導する」という条項がそれである。

戦時の「国家防衛委員会」

 これは戦時に突入した際に、新たに「国家防衛委員会」を設置し、その委員会のメンバーなどを指名する権限を金正恩党委員長に付与するもので、金正恩党委員長への権力集中がさらに強化された。これで金正恩氏は、党では党委員長、党政治局常務委員、党政治局員、党中央委員、党中央軍事委員長の5職責、国家では国務委員長、軍では最高司令官、元帥、さらに議会で最高人民会議代議員という9つの職責を持つことになった。
 党機関紙「労働新聞」は7月1日付で「敬愛する金正恩同志の領導に従いわが共和国の尊厳と偉容をあらゆる方面に響かせていこう」と題した社説を掲げ「金正恩同志を共和国の最高首位に高く奉じることは主体革命偉業を最後まで継承、完成させることにおいて歴史的な出来事であった」とその意義を称えた。
 金正恩党委員長は約4年半の統治を経て開催した今回の党大会と最高人民会議で自前の統治機構を作り上げた。党の下部構造を世代交代で若返らせ、軍を黄炳瑞(ファン・ビョンソ)軍総政治局長、党を崔龍海(チェ・リョンヘ)党副委員長、内閣を朴奉珠(パク・ポンジュ)首相に責任を持たせる体制を構築した。また、父の金正日(キム・ジョンイル)総書記時代の非常事態体制ともいえる先軍体制を、党中心の党国家体制に正常化させた。核兵器やミサイルを重視する先軍路線は維持するが、その主体は軍ではなく党だ。いわば、軍主導の先軍から党主導の先軍へと姿を変え、先軍の中身も一般的な国防重視路線ではなく、核・ミサイルに重点を置いたものだ。その意味では「先軍路線」は、経済建設と核開発を同時に進める「並進路線」へと実体的に変化しつつある。

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執筆者プロフィール
平井久志
平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。
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