経済の頭で考えたこと
経済の頭で考えたこと(83)

英国EU離脱で露出した「3つの亀裂」

田中直毅
執筆者:田中直毅 2016年7月14日
エリア: ヨーロッパ
「シティの機能」は維持されるのか? 左手前の建物はイングランド銀行(BOE、英中央銀行)、右手前は王立取引所 (C)時事

 6月23日のEU(欧州連合)離脱に関する英国の国民投票から2週間で、鮮明になった3つの亀裂がある。いずれもEU離脱投票をきっかけとして、あらためてその抱える問題の深刻さが浮き彫りとなったものである。国際経済社会において薄々認識されていた欧州経済の背後に存在する構造的な問題だったが、日々の雑多な現象のなかで、ついつい見逃しがちなものであった。英国のEU離脱という撹拌棒(かくはんぼう)によって亀裂が観察されたのだ。

英国内の「国際企業」と「国内企業」

 まず第1に、英国内部の亀裂をみてみると、英国産業を構成する企業の成り立ちの違いが明らかになった。株式や債券などの指数を作成・管理するFTSE(ロンドン証券取引所の子会社)が提供する株価指数のうち、FTSE100は時価総額で英国の上位100社で構成する株価指数を指す。これに対してFTSE250は上位100社を除いて、それに次ぐ250社で構成される中型株指数である。
 6月23日まではFTSE100とFTSE250とを区別して取り上げる理由はなかった。ところが6月23日以降、投資家にとってこの2つはまったく別の分類になった。なぜならばFTSE100は国際的に業務を展開する企業に関する株価指数、これに対してFTSE250は英国内で展開する銀行業や不動産関連の企業が多いという特徴があるからだ。
 亀裂を生むに至った理由は2つある。1つは通貨ポンドの価値下落が始まり、下値についての予測値も導出しがたい状況が生まれたことである。もう1つは英中央銀行のイングランド銀行総裁カーニーが、量的かつ質的金融緩和に敢然と取り組む意思を明らかにしたことだ。カナダ中銀から移籍したカーニーにとっては、英国政界の混乱の中期的持続が回避できない以上、金融政策展開によって実体経済への衝撃を吸収する策を練ることは当然であった。ポンド下落に帰着するはずの金融緩和政策への踏み出しを明らかにした。
 国民投票後、FTSE100は6月24日(金)と27日(月)の2営業日は連続して下げたものの、28日(火)からは上昇に転じ、29日(水)には結果が判明する前の23日(木)の水準を上回った。そして7月8日(金)までは基調上昇を続けた。ポンド安が追い風となっている大企業群の存在を示すものである。
 これに対してFTSE250は27日(月)に底打ちし、28日(火)からはFTSE100と同様に回復の兆しをみせたものの、半値戻しのあとは一進一退を続ける。投資家は英国内の経済情勢展開を楽観してはいないのだ。

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執筆者プロフィール
田中直毅
田中直毅 国際公共政策研究センター理事長。1945年生れ。国民経済研究協会主任研究員を経て、84年より本格的に評論活動を始める。専門は国際政治・経済。2007年4月から現職。政府審議会委員を多数歴任。著書に『最後の十年 日本経済の構想』(日本経済新聞社)、『マネーが止まった』(講談社)などがある。
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