五輪直前「ブラジルの混乱」(上)「未来の大国」はなぜ転落したのか

遅野井茂雄
執筆者:遅野井茂雄 2016年7月15日
エリア: 中南米

 もう約10年前になる。今でも忘れられない光景がある。
 2007年7月6日、当時の麻生太郎外務大臣が、東京・大手町の経団連会館で中南米政策を語った時のことだ。日本人のブラジル移住100周年を翌年に控えて、「日本にとって中南米の意味を問う・新時代のパートナーシップを育てるとき」と題した外交演説である。民主主義が定着し経済的に台頭したブラジルを筆頭とする中南米諸国に対し、貧困や格差是正に取り組む左派政権の政策を支援すると同時に、移住などを経て日本が中南米で培った「含み資産」を活かし、地球規模の課題に対し「共益を語れる」パートナー、中南米との積極外交の推進を唱えた異例の演説だった。
 会場を埋めた出席者にはブラジル駐在経験のある企業関係者が多く、各所から口々に「ブラジルは大した国になったものだ」と近年の成長ぶりを称える声が聞こえた。「未来の大国」と言われ続け、債務危機やハイパーインフレで幾度となく期待を砕かれてきたブラジルが変貌を遂げ、「今度こそ本物だ」と、新興パワーとして台頭しつつあったブラジルに寄せる高揚感が会場に満ちていた。
 その高揚感は、2014年のサッカー・ワールドカップの開催に続き、16年のリオデジャネイロでの夏季五輪招致が09年に決まったことで頂点に達した。 

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執筆者プロフィール
遅野井茂雄
遅野井茂雄 筑波大学大学院教授、人文社会系長。1952年松本市生れ。東京外国語大学卒。筑波大学大学院修士課程修了後、アジア経済研究所入所。ペルー問題研究所客員研究員、在ペルー日本国大使館1等書記官、アジア経済研究所主任調査研究員、南山大学教授を経て、2003年より現職。専門はラテンアメリカ政治・国際関係。主著に『21世紀ラテンアメリカの左派政権:虚像と実像』(編著)。
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