逆張りの思考

ドライブが快適になった

執筆者:成毛眞 2016年7月21日
エリア: アジア

 5日間かけて東北を車で回ってきた。東北をゆっくり訪れるのも、2泊以上のドライブ旅行をするのも初めてである。まずは新潟に出て、秋田へ北上し角館に入り、さらに十和田湖、会津若松と回ってきた。1日300キロの移動を基本に、宿はそれぞれの町から最も近い温泉地に決めた。宿泊地以外は何も決めず、家内と自宅を出発した。
 しかし、何も事前に決めなかったことがむしろ面白かった。家内は助手席でガイドブックとスマホを見比べながら、どこへ寄ろうとかどこで休憩をしようとか提案してくる。今はこういう旅ができる時代なのである。ちょうど新緑の季節であり、わざわざ観光地へ行かなくても、車窓からの眺めだけでも十分良かった。初めて訪れた中尊寺も、奥入瀬の手前にある導水路のような水の流れも、八幡平から森林の中を下る道も楽しめた。宿は会津若松の旅館、国の登録文化財「向瀧」が素晴らしかった。
 東北を走っていて気付いたことが2つある。
 まず、東北自動車道はアウトバーンだということ。道路幅が広く直線が長くて舗装も素晴らしい。東名高速などに比べてトラックの数が少ないので、視界も広い。だから首都高速などを走っているときとは感覚が違う。体感速度で言えば、東北自動車道の時速100キロと、首都高の時速60キロは同じくらいではないか。それだけ、スピードを出しても恐怖を感じないのである。
 警察庁は今春、高速道路の制限速度を時速100キロから120キロに引き上げることを決め、その試行区間に東北自動車道の花巻南ICから盛岡南ICを挙げていたが、試行と言わず実態に合わせてすぐにでも120キロに引き上げていいのではないか。
 また、地方の山深い「道の駅」は地元の食品スーパー兼レストランになっていることも驚きだった。東京近郊の「道の駅」は、かつてのドライブインのように休憩をし、ついでにその土地の名産も買える、観光客のための施設であることが多い。しかし、地方では地元の人々の日々の買い物の場でもあるのだ。品揃えが実に多く、そして安い。私もつい必要もないのに100円の唐辛子を買ってしまった。バスケット1杯300円の蕗(ふき)は持って帰ることを考えて諦めたが、唐辛子は1袋20~30本は入っていて、こんなに安くていいのかと戸惑ったほどだ。戸惑ったと言えば、新潟で立ち寄った道の駅で、冷凍ケースにあったアイスクリームがことごとくコシヒカリの何かを使ったものだったことだ。
 甘いものでは、秋田の角館で見つけた生もろこしが美味かった。もろこしといってもトウモロコシではなく、小豆を粉にして砂糖を加え、型に入れて固めてから焼いた伝統のお菓子だ。それの“生”があるのだ。その名も生もろこし。焼いていないので、硬くない。口に入れるとふわりと溶ける。幻というものを菓子にしたらこうなるであろうという口溶けなのだ。とりわけ「唐土庵いさみや」という店のものが良かった。また立ち寄ることがあれば買い求めたい。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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