尖閣諸島「危機」:急務は「海保」の拡充だ

伊藤俊幸
執筆者:伊藤俊幸 2016年8月17日
エリア: 中国・台湾 日本

 8月5日を境に、中国公船の尖閣諸島海域への侵入が突如エスカレートした。外務省の発表によれば、8月5日から16日までの間に、約200~300隻の中国漁船が尖閣諸島周辺の接続水域で操業。これを追うかのように、最大15隻の公船が同時に接続水域に入域した。
 また領海には、5日に公船3隻、漁船7隻が侵入。さらに7日から3日間連続で侵入が相次ぎ、9日には公船10隻、漁船25隻が領海に侵入したのである。
 なぜ中国は突然、尖閣諸島海域に多くの公船を送り込んできたのか。そしてこの事態に日本はどう対処していくべきなのか。考察してみたい。

国内向けのパフォーマンス?

 まずは「南シナ海の仇を東シナ海で討つ」という意識があることは間違いない。7月12日に下った、南シナ海を巡る仲裁裁判の裁定は、中国の全面的敗北と言えるものだった。面子を潰され、自尊心を傷つけられた中国が、その矛先を東シナ海に向けるのは想像に難くない。
 ただ重要なのは、この行動が誰に対してのアピールなのかということだ。国際社会に対して、また日本への恫喝という側面はもちろんあるが、ここでは、現在開催中とされる「北戴河会議」に向けたもの、と見るべきだろう。
「北戴河会議」とは毎年夏、中国の避暑地・北戴河で行われる非公式の会議で、中国共産党の要人や長老が集まるものである。非公式ゆえに、いつ始まっていつ終わり、何が話し合われているかについて公式に発表されることはない。表の場である党大会で党内の対立をみせないための事前調整や、党や国の重要な方針や人事などを討議しているとされる。
 ということはもちろん、この会議は激しい権力闘争の場でもある。そんな重要な会議の直前に仲裁裁判の裁定が出たことは、習近平政権にとっては大きな痛手だった。権力闘争で後手をとってはならない――これが東シナ海でのエスカレーションになった、との見方がある。つまり今回は、対外的なアピール以上に中国国内向けのデモンストレーションと見るべきなのだろう。

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執筆者プロフィール
伊藤俊幸
伊藤俊幸 元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、キヤノングローバル戦略研究所客員研究員。1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第二潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第二術科学校長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。
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