EU首脳会議で問われた「統合のリーダーシップ」

渡邊啓貴
執筆者:渡邊啓貴 2016年9月23日
エリア: ヨーロッパ
9月16日、欧州首脳会議に参加したメルケル独首相(中央左)とオランド仏大統領(同右)(C)AFP=時事

 9月16日、スロヴァキアの首都ブラティスラバで、イギリスを除く27カ国による非公式の欧州首脳会議が開催された。6月の国民投票によるイギリスの欧州連合(EU)離脱(BREXIT)の結果を受けて、イギリス首相は加盟以来初めて招待されなかった。BREXITを背景とする欧州統合の全体的な不安の中で、難民・移民問題をめぐる東西ヨーロッパの対立が浮き彫りになった会合だった。

イギリスのいない首脳会議

 今回の首脳会議の議題にはBREXITは含まれなかった。EUとしてはイギリスから離脱のプロセスやその要望を言ってこない限り公式の交渉はないという立場である。イギリスの立場が明らかでない中で、EUには手詰まり感が強い。
 首脳会議直後、トゥスクEU大統領はメイ英首相が来年1-2月ごろイギリス離脱通知を行うと伝えたことを明らかにした。今回の首脳会議の直前にファンロンパイ前欧州委員長が、離脱交渉は来年のドイツ連邦議会選挙の後になると言ったこともあり、加盟各国の間で不安感がこれ以上広がるのを防ぐ意味があったのであろう。EUとイギリスとの綱引きはこれから本格化する。今は嵐の前の静けさであろうか。
 BREXITはさまざまな難しい課題を提起している。筆者はもともと欧州地域統合は理想主義というよりも、先進社会が成長の限界に直面し、決定的な突破口を見出せない中で、各国が協力して支え合い、国際的な構造改革を進めていくことで困難を克服するという現実主義から見た統合肯定論である。筆者の表現でいえば「国境を越えたリストラ(構造改革・制度整備)」である(2016年7月12日拙稿「EUの来た道(下)それでも『統合』は進んでいる」参照)。
 その意味では、EU離脱強硬派の一国社会・経済体制への回帰の方がむしろ懐古的でナショナリスティックな「楽観的理想主義」である。統合は程度の問題であって、「完全な統合」もなければ「完全な離脱」もないのが現状だからだ。
 むしろBREXITが提起した基本的問題は、統合の独仏イニシアティブに対する反発とリーダーシップをめぐる争いだった。

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執筆者プロフィール
渡邊啓貴
渡邊啓貴 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)『現代フランス 「栄光の時代」の終焉 欧州への活路』(岩波書店)など。
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