逆張りの思考

ゲーム経験が仕事に役立つ

執筆者:成毛眞 2016年10月6日
エリア: アジア

 ダヴィンチという手術支援ロボットの名前を、聞いたことがある人は少なくないだろう。ロボットというと、人間のように2足歩行したり、巨大な腕で溶接などをする工作機械を想像しがちだが、このダヴィンチは少し違う。
 大型の顕微鏡のようなコンソールの中にあるモニター画面を覗き込むと、少し離れたベッドに横たわっている患者の術部が映し出されている。マジックハンドのようにコントローラーを握って、遠隔操作で患部を切ったり縫ったりするのである。以前、東京医大に取材に行ったときに、練習用のダヴィンチを操作させてもらったが、その手応えはゲームそのものだった。
 テレビゲームの経験がある医師と、まったくない医師とでは、ダヴィンチを使った手術のうまさ、上達具合が違うのではないかとそのとき思った。
 昭和の時代から、我が子にゲームを禁ずる親がいる。理由はおそらく、その時間を勉強に回せということだろう。勉強さえできれば安定した職に就け、生活に困らない時代であればそれでもいいのかもしれないが、今はそんな時代ではない。
 ゲーム経験とは、画面に向かってのコントローラー操作経験の有無だけを言っているのではない。ゲームによっては、仲間とチームを組んで役割分担を決めてから敵と戦う、戦略と戦術を求められるものもある。それは筋力を使わないスポーツさながらで、チームワーク力も鍛えられるのだ。
 これまでは仕事に無関係だったゲーム経験だが、ゲーム的なものが社会に取り込まれつつあるこれからは、それが大きな意味を持ってくるだろう。ベンチャー企業経営も市場取引も新製品開発もじつにゲーム的なのだ。最近はパソコンを使えない新入社員を嘆く声も聞かれるが、それと同様に、親の言いつけを守ってゲームを避けてきた新人が上司から「ゲームもできないの?」とあきれられてしまう日も遠くない。
 子供にゲームをさせるかさせないかという議論は、スマホを持たせるか持たせないかのそれに似ている。娘と累計何百時間もゲームで一緒に遊んできた私は、彼女に常に最新の携帯を与えてきた。将来、スマホが世の中に普及していく一方であることは明らかで、スマホのない世界になるとは考えられなかったからだ。であれば、できるだけ若いうちから慣れておくに限る。18歳になったら何をさておいても自動車の運転免許を取得し、積極的にドライブに出かけるようなものである。
 こういった話をすると訳知り顔で「それでは子供がトラブルに巻き込まれる」と苦言を呈する人がいるかもしれない。しかし、子育てを終えた世代の人には思い出して欲しいのだが、じつは子供は根っからの怖がりだ。子供が交通ルールを守るのは、親や先生に小言を言われるのが嫌なだけではなく、ものすごいスピードで走ってくる巨大なクルマそのものが怖いからだ。子供が怖さを理解できる年齢になったら、スマホの怖さもしっかり教えておくべきだろう。

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執筆者プロフィール
成毛眞(なるけまこと) 中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年、マイクロソフト株式会社に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。2011年、書評サイト「HONZ」を開設。元早稲田大学ビジネススクール客員教授。著書に『面白い本』(岩波新書)、『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)、『これが「買い」だ 私のキュレーション術』(新潮社)、『amazon 世界最先端の戦略がわかる』(ダイヤモンド社)、『金のなる人 お金をどんどん働かせ資産を増やす生き方』(ポプラ社)など多数。(写真©岡倉禎志)。
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