軍事のコモンセンス (6)

「平和安全保障法制」への評価と批判(下)

執筆者:冨澤暉 2016年11月19日

 第1次安倍内閣のときに発足した安保法制懇が挙げた4事例の中の「米国向けの弾道ミサイルを日本のミサイル防衛システムで邀撃する」という項目だけは、確かに集団的自衛権行使に関わるもののように見える。しかし、これを初めて読んだ時、筆者は即座に「こんなこと、できっこないよ」と呟いていた。

日本は米国本土向けのミサイルを邀撃できない

 米国本土向けのミサイルが仮に北朝鮮から発射されるとして、それは日本上空を飛ばないからである。ミサイルは通常最短距離を飛ぶので、北朝鮮から米国本土に行くときには東部ロシア→アラスカ→カナダ→米国と、いわゆる大圏航路をとるのである。だから日本上空を横切ることはない。無論、その2つの大陸の上空を跳ぶミサイルを日本から追いかけて撃つこともできない。航空自衛隊のPAC‐3という対空ミサイルの射程は25キロで、日本海上の海自イージス艦搭載のSM-3の射程は200キロだから、どちらもそのレーダーからして届かないし、速度は追いかける方が遅いからである。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
冨澤暉(とみざわひかる) 元陸将、東洋学園大学理事・名誉教授、財団法人偕行社理事長、日本防衛学会顧問。1938年生まれ。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。米陸軍機甲学校に留学。第1師団長、陸上幕僚副長、北部方面総監を経て、陸上幕僚長を最後に1995年退官。著書に『逆説の軍事論』(バジリコ)、『シンポジウム イラク戦争』(編著、かや書房)、『矛盾だらけの日本の安全保障』(田原総一朗氏との対談、海竜社)。
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