国際法無視の中国「海洋国土」論(上)米無人探査機「強奪」の意味

伊藤俊幸
執筆者:伊藤俊幸 2017年1月26日
カテゴリ: 国際 外交・安全保障

 海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)は1982年に第3次国連海洋法会議で採択され、94年に発効した条約である。これは領海や公海はもちろん、海洋環境保全や海洋科学調査、そして国際紛争の解決にいたるまで、海に関する国際的なルールが網羅されているものだ。アメリカやペルー、トルコ、ベネズエラを除く160以上の国と地域、それにEU(欧州連合)が批准しており、その中にはもちろんわが日本も、そして中国も含まれる。
 ところが中国は、国連海洋法条約で定められたルールに反したり、無視したりすることが多い。そのいい例が南シナ海問題で、いわゆる「九段線」を主張して南シナ海の領有権を主張しているが、フィリピンが提訴していた仲裁裁判では、昨年7月、中国の主張を実質的に認めないという裁定が下ったことは記憶に新しいだろう。
 中国はいったいどんな考えで、そのような主張を繰り広げるのだろうか。それは「海洋国土」という概念があるからなのである。

海南島事件で垣間見えた「海洋国土」

 2001年4月、アメリカと中国との間で軍事的なトラブルが発生した。海南島事件と呼ばれるものだ。
 米海軍所属の電子偵察機EP-3Eは、海南島の南東約110キロの南シナ海海上を飛行していた。目的は、中国国内の無線通信傍受であった。そこに中国人民解放軍海軍航空隊所属の戦闘機J-8Ⅱが飛来し、EP-3Eと空中衝突。人民解放軍戦闘機は墜落してパイロットは行方不明になり、EP-3Eは大きな損傷を受け、近くの海南島の飛行場に不時着した、という事件である。
 事後の米中協議の中で、双方とも相手側が挑発した、と主張したのだが、米側が聞き逃さなかったのは、中国が“米軍機の領空侵犯”を言い出したことだった。
 米軍機が飛行していたのは、先に述べたように、海南島の南東約110キロの地点で、中国の領海12海里の外、排他的経済水域(EEZ)の内側だった。
 後に詳述するが、EEZは、公海と同じく上空飛行の自由が国連海洋法条約によって認められている。にもかかわらず、中国が“領空侵犯”と言うのはどういうわけなのか。米側が問いただしたところ、中国側は「わが『海洋国土』の上空を米軍機が飛んだからだ」と答えたという。
 米軍が、中国の「海洋国土」という概念を知ったのは、この時が初めてだった。当時在米国日本大使館防衛駐在官だった筆者に、米海軍担当者が耳打ちした。「どうも中国は海洋に関して我々と違う解釈をしている」。日本にとっても初めて聞いた言葉だった。

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執筆者プロフィール
伊藤俊幸 元海将、金沢工業大学虎ノ門大学院教授、キヤノングローバル戦略研究所客員研究員。1958年生まれ。防衛大学校機械工学科卒業、筑波大学大学院地域研究科修了。潜水艦はやしお艦長、在米国防衛駐在官、第二潜水隊司令、海幕広報室長、海幕情報課長、情報本部情報官、海幕指揮通信情報部長、第二術科学校長、統合幕僚学校長を経て、海上自衛隊呉地方総監を最後に2015年8月退官。
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