連載小説 Δ(デルタ)(5)

執筆者:杉山隆男 2017年5月13日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (c)時事

 

【前回までのあらすじ】

巡視船「うおつり」船内で爆発。特警隊員の市川準一・2等保安士は、気を失っただけで難を逃れた。調理担当の先輩は殉職。耳を澄ますと、聞こえるのは中国語の会話のみで、他の乗組員は行動の自由を奪われているようだ。自分だけが人質になっていない――市川は調理室の刃物で武装した。その時、急に船内の様子があわただしくなった。

 

     6

 上空で旋回している海自の哨戒機P3Cからは、もう1時間以上錨を下ろしたかのように微動だにしない眼下の「うおつり」と、機首を下にかしげて一気に急降下していく海保のヘリがいまやほとんど重なりあって見える。ヘリは、「うおつり」のブリッジにいる乗組員と目線が合うくらいまで高度を下げているだろう。

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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