連載小説 Δ(デルタ)(11)

執筆者:杉山隆男 2017年7月2日
エリア: アジア
沖縄県・尖閣諸島の魚釣島と北小島、南小島 (C)時事

 

【前回までのあらすじ】

カラシニコフを構え、市川が潜む道具箱に近づいてくる「愛国義勇軍」最年少の兵士・張。銃口を向けられ、高まる恐怖心。いっそ飛びかかろうと秒読みを始めた途端、部屋の外から1発の銃声が聞こえた。一瞬の隙を突き、市川は張を取り押さえた。

 

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 ドサッというかなりの音がしたはずだが、廊下からは男たちの激しく言い争う声が聞こえてくる。いまや攻守逆転し、ナイフの冷たい感触に表情をこわばらせ、身動きひとつできないまま、おびえた眼を向けてくる男と市川は奇妙な話だが、廊下の言い争いに自然と聞き入る恰好になった。

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執筆者プロフィール
杉山隆男(すぎやまたかお) 1952年、東京生れ。一橋大学社会学部卒業後、読売新聞記者を経て執筆活動に入る。1986年に新聞社の舞台裏を克明に描いた『メディアの興亡』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。1996年『兵士に聞け』で新潮学芸賞受賞、以後『兵士を見よ』『兵士を追え』とつづく「兵士シリーズ」は7作目の『兵士に聞け 最終章』で完結した。ノンフイクション、小説、エッセイなど精力的に執筆し、『汐留川』『昭和の特別な一日』『私と、妻と、妻の犬』など著書多数。
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