岩瀬昇のエネルギー通信 (53)

石油市場を混乱に陥れるトランプ大統領の「希望的観測」

「彼は合意した!」とは「希望的観測」ではないのか(C)AFP=時事

 

 ドナルド・トランプ大統領が、サウジアラビア(以下、サウジ)の国王に電話して、能力一杯の増産を要請したら合意してくれた、とツイートしたと、世界中のメディアが直ちに報じた。たとえば、『日本経済新聞』も電子版で「トランプ氏、サウジに原油増産を要請 最大200万バレルか」(6月30日22:05)と題して伝えた。一大事だ、というわけだ。

 筆者の第一印象は、トランプ大統領のツイートには自らの「wishful thinking」(希望的観測)が混じっているのではないだろうか? たとえば、回りから「サウジの余剰生産能力は200万BD(バレル/日量)」とインプットされていて、サルマーン国王に「精一杯増産してくれ」と頼んだら、国王は「できるだけのことはするよ」と応えた、これを「サウジアラビアに最大200万BDくらいの増産を通じ穴埋めを求めた」ら「彼は合意した!」とツイートした、ということではなかろうか、という見立てである。

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執筆者プロフィール
岩瀬昇(いわせのぼる) 1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同)、最新刊に『超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編』(エネルギーフォーラム)がある。
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