経済学を成長神話から解放したミルの「自由の原理」

執筆者:堂目卓生 2010年1月号
タグ: 経済 イギリス

 人間にとっての善は快楽であるとするベンサムの功利主義思想は、人間むきの思想ではなく豚むきの思想であると批判された。十九世紀中葉を代表するイギリスの経済学者ジョン・ステュアート・ミル(一八〇六―七三)は、この批判に応えるため、人間にとっての善は、単なる快楽ではなく、質の高い快楽であると述べた。 ミルによれば、飲酒の快楽に身をまかせる人がいるのは、その人が、科学、芸術、社会奉仕など、より深く持続性のある他の快楽を知らないからである。その人が、他のいろいろな快楽を知れば、より質の高い快楽を選択するようになるであろう。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
堂目卓生(どうめたくお) 大阪大学大学院教授。1959年生れ。京都大学大学院博士課程修了(経済学博士)。18世紀および19世紀のイギリスの経済学を専門とし、経済学の思想的・人間学的基礎を研究。おもに英語圏の学術誌で論文を発表してきた。著書『アダム・スミス――「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中公新書)でサントリー学芸賞受賞。
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