「人間本性の変化」に注目したマーシャルの経済生物学

執筆者:堂目卓生 2010年2月号

 イギリスにおいて経済学を理論的に体系化したのは、アルフレッド・マーシャル(一八四二―一九二四)である。部分均衡分析、需要の弾力性、消費者余剰、代表的企業、外部性など、マーシャルが創案した諸概念は、二十世紀における経済理論の精密化・数学化に大きく貢献した。 しかしながら、マーシャルは、最初から経済学を志したわけではない。経済学の研究を始める前、彼は心理学を研究した。マーシャルの関心は、「人間能力の発展の可能性」という問題にあった。ヒュームと同様、マーシャルは、人間の諸観念は感覚を通じて生み出されると考え、当時の脳科学の成果を取り入れて、人間本性を生理学的に考察しようとした。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
堂目卓生(どうめたくお) 大阪大学大学院教授。1959年生れ。京都大学大学院博士課程修了(経済学博士)。18世紀および19世紀のイギリスの経済学を専門とし、経済学の思想的・人間学的基礎を研究。おもに英語圏の学術誌で論文を発表してきた。著書『アダム・スミス――「道徳感情論」と「国富論」の世界』(中公新書)でサントリー学芸賞受賞。
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