80時間世界一周 (67)

権力の香りが立ちのぼる紅茶「ブランド化」小史

執筆者:竹田いさみ 2010年3月号
エリア: ヨーロッパ

「世界的に有名な紅茶の老舗」を捜し求めてロンドン市内を歩き回り、疲れ果て、ほぼ諦めかけた頃だった。ついに「トワイニング」の本店を見つけることができた。バス通りに面しながら店構えがあまりにこぢんまりしていたため、あやうく見過ごしてしまうところだった。 ロンドン中心部のトラファルガー・スクエアから金融街シティー方面にストランド通りをしばらく歩いていくと、ビルの谷間に「トワイニング」はひっそりと佇む。創業は一七〇六年。同じロンドンでも、繁華街ピカデリー・サーカスにある高級食材店「フォートナム・アンド・メイソン(F&M)」(創業一七〇七年)の賑わいとは対照的に、法律関係の事務所が軒を連ねる地味な町並みの一角にある。付近に観光客の姿はない。目に付く大きな看板もなく、正面玄関の上にはお馴染みのトレードマーク――二人の中国人が黄金のライオンを挟むように鎮座している――をかたどった石像があるだけだ。この石像は中国から「ティー(茶)」を直輸入しているという証しである。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
竹田いさみ(たけだいさみ) 獨協大学外国語学部教授。1952年生れ。上智大学大学院国際関係論専攻修了。シドニー大学・ロンドン大学留学。Ph.D.(国際政治史)取得。著書に『移民・難民・援助の政治学』(勁草書房、アジア・太平洋賞受賞)、『物語 オーストラリアの歴史』(中公新書)、『国際テロネットワーク』(講談社現代新書)、『世界史をつくった海賊』(ちくま新書)、『世界を動かす海賊』(ちくま新書)など。
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