「代表なければ課税なし」 河野雅治『和平工作』

執筆者:船橋洋一 2001年5月号

 東京都港区赤坂の高級マンションやオフィスビルが林立する中に、雑草が生い茂り、荒れ放題になっている一角があった。「カンボジア大使館」 ポル・ポト派が政権を奪取した一九七五年以来、ここは閉鎖されていた。「この光景が当時の日本とカンボジアの関係を物語っていた。外務省アジア局の南東アジア第一課長に就任した当時、私にとって、少なくとも地理的な意味でのカンボジアの存在はゼロだった」 河野雅治はそう書き出している。一九八九年夏のことである。 七月にパリで、カンボジアの当事者とすべての関係国が参加する第一回のカンボジア和平会議が開催された。フランスとインドネシアが音頭を取った。方々工作した結果、日本はかろうじて招かれたが、日本の立場は弱かった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
船橋洋一(ふなばしよういち) アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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