閉塞の向こう側、とでも名付けうるような風景のことをぼんやりと考えて、ずいぶん時間が経つ。阪神大震災も地下鉄サリン事件も、今や遠い過去の出来事。すべて自動的に「処理」される日々を重ねたあげく生じた大きな齟齬とどう対峙してよいのか、わからない。「閉塞の向こう側」の風景が、ほんの一瞬、脳裏にたちのぼる。そんな経験をしたくて、村上春樹の新作長編『海辺のカフカ』(新潮社)を読んでみた。 結果は「吉」である。デフレ経済脱却の処方箋が示されるわけではもちろんないし、いつも通り、謎は謎のまま、解決されることなく終わる。それでいいじゃん。小説ってそんなもんでしょ。
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