饗宴外交の舞台裏 (62)

シャンパンが省かれた午餐会

執筆者:西川恵 2003年3月号
エリア: ヨーロッパ

 フランスと西独の間で一九六三年一月二十二日に結ばれたエリゼ条約は戦後の仏独関係の出発点である。条約の名がとられたフランス大統領官邸で、フランスのドゴール大統領と西独のアデナウアー首相が署名した。 条約の中身自体は極めて無味乾燥だ。曰く、両国首脳は年二回会談する。両国外相は年四回会談する……。友好や協力といった言葉は一度も出てこない。 戦災の記憶がまだ癒えない当時の仏・西独関係は、まず両国首脳が会う枠組みを作り、それを出発点に中身(友好関係)を徐々に埋めていくというプロセスを踏んだことがよくわかる。言葉だけでも取りあえず友好を謳って繕う、という幻想は、この条約には一片たりともうかがえない。しかし百三十年余に三度戦火を交わした両国は、これによって恩讐を超えた関係を構築することになった。

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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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