欧州を悩ませる「止まらない移民の波」

執筆者:サリル・トリパシー2004年8月号

域内統合を進める一方で外部に対しては“壁”を高くしつつある欧州。しかし移民の波が止むことはない。[ロンドン発]イギリスのタブロイド紙は外国人の流入に対する懸念を常に煽り続けてきたが、五月、旧東欧圏を中心に新たに十カ国がEU(欧州連合)に加盟するとその騒ぎはひときわ激しくなった。アムステルダム条約とシェンゲン条約によって、“新参”のヨーロッパ人も、イギリスを含むEU加盟国のどこにでも住む権利を持つことになったからだ。 タブロイド紙はこぞって、チェコ人やポーランド人の流入で、今にイギリスは洪水になってしまうと煽り立てた。中でも排外的な『サン』は、「難民にとって便利なフレーズ」として、「だんな、小銭はありませんか」や「いちばん近い福祉事務所はどこですか」といった表現を載せた。その心は、移民は働かず福祉に依存するというものだ。 しかし、いざフタを開けてみると、恐れられていた「移民の洪水」は、水が滴る程度のものでしかないことがわかった。EU拡大一カ月後の六月一日、移民問題担当のデス・ブラウン閣外大臣は、新規加盟国からイギリスへの移民の洪水は起きていないと言い、五月一日以降、英政府に労働者登録を行なった東ヨーロッパからの移民は、既にそれ以前から不法滞在していた労働者で、単に身分を合法化したに過ぎないとも付け加えた。正式な統計はまだ出ていないが、周辺を見る限り、経験的に言えば、東ヨーロッパからイギリスに来た労働者たちは、言葉の壁を越えられずに帰国していくケースが多いように思う。

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