「九〇式戦車は限りなくゼロでいいんじゃないか」 陸上自衛隊のある幹部は、石破茂防衛庁長官の言葉に身震いした。六月上旬に開かれた防衛庁・自衛隊の幹部協議。政府が見直しを進めている「防衛計画の大綱」に話が及ぶや、石破長官は居並ぶ幹部たちに陸自装備の大幅な削減を提案したのだ。 昨年八月に公表した二〇〇三年版防衛白書では、これまで防衛力整備の前提としてきた日本本土への着上陸侵攻について「可能性は低い」と初めて明記。テロやゲリラ、弾道ミサイルなど「新たな脅威」への対応の強化を打ち出した。米ソ対立の冷戦が終結して十五年。安全保障上の脅威の形態は変わり、「国家対国家」という対称の構図ではなく、テロやゲリラといった「非対称」の存在がクローズアップされた。二〇〇一年九月の米同時テロはそれを明確にした。 旧ソ連を仮想敵に、着上陸侵攻に備えて北方を中心に守りを固めてきたのが陸自であり、その中核を担ったのが戦車である。長官の戦車不要論は、間接的な言い回しながら陸自の存在理由そのものを問い質していた。 防衛政策の基本方針を示す「大綱」が一九九五年に改定されてから九年。見直し作業は二〇〇一年の中谷元・前長官時代に始まり、後任の石破長官も意欲を燃やすが、議論が百出し、遅々として進まない。九月の内閣改造で留任の確約がない長官が在任中に悲願を達成するには、八月の二〇〇五年度予算の概算要求前までに大綱の方向性を決める必要がある。ことあるごとに「在任中に新大綱の道筋だけは付けたい」と漏らす長官の「本気」に陸自幹部が敏感に反応したのにはワケがあったのである。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。