動き始めたインド新政権の顔ぶれとその実力

執筆者:古池一正2004年9月号

十億を超える人口の六割以上が天候だのみの農業に従事する一方で、納税者はたったの三千万人。経済改革と貧困対策の両立は実現できるのか――[ニューデリー発]インドのマンモハン・シン政権が発足して約三カ月。五月の総選挙で誰も予想しなかったバジパイ前政権(インド人民党=BJP=主導の連立政権)が敗北し、シン政権が誕生した。「首相の顔が見えない」などと言われながらも、独立以来の伝統を誇るインド国民会議派のベテランと実力者をそろえた新内閣は着実に国民の支持を固めている。 シン政権は七月八日、二〇〇四年度(〇四年四月―〇五年三月)予算案を国会に提出した。〇四年度は、総選挙のため前政権が暫定予算を組んでいたのだが、このたび新政権が七月以降分を編成した。 予算案作成の中心になったのはパラニアッパン・チダムバラム財務相。一九九〇年代の経済自由化を推進した立て役者で、シン政権を支える大黒柱の一人だ。税率を下げることによって課税範囲を広げ、納税者を増やし、企業収益を向上させ、結果として税収増を実現するという「夢の予算」(ドリームバジェット)を組んだ切れ者として知られる。かつて公約の実現性を記者に問われ「約束したのはチダムバラムです。絶対実現します」と豪語したとの逸話もあるが、嫌みの漂う自信家というわけではない。具体的な数字を挙げて諄々と説く口調は説得力があり、政治家というよりは教育者か人権派弁護士の誠実さを感じさせる人物だ。

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