[モスクワ発]七月九日午後九時四十分ごろ、米経済誌『フォーブス』ロシア語版(部数四万部)の編集長ポール・クレブニコフ氏(四一)が、編集部のあるモスクワ中心部の建物から出たところで銃撃されて死亡した事件は、ロシアの闇の存在を改めて強く印象づけた。 同月刊誌は四月に創刊。ロシアで初めての長者百人番付を発表し、石油や天然ガスが生む潤沢な資金が渦巻くロシアのビジネスの深部に切り込む記事で注目された。その陣頭指揮をとっていた敏腕ジャーナリストの殺害は、彼がロシア系米国人でエリートだったこともあり、大きな関心を呼んだ。 モスクワの米国大使館は「ポール・クレブニコフは、フェアプレー、平等、率直さという米国の価値観のためにベストを尽くし、彼が愛したロシアでもそれを貫こうとした」との異例の声明を発表した。また米国から駆けつけた二人の兄弟も米大使館で記者会見し「今こそロシアの正念場だ。対立や利害の衝突を殺人で解決することが当たり前なら、その国は病んでいる」と語った。 これらは「法の独立」を掲げながらも国家機構と癒着した犯罪組織が横行し、三権分立も建前に過ぎない「プーチンのロシア」に対する米国の鋭い警告として響いた。

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