擬似戦争としてのスポーツ

執筆者:徳岡孝夫2004年9月号

 中国で行われたサッカーのアジア・カップでの日本チームへの激しいブーイング。私はべつに驚かなかった。なぜなら、あらゆるスポーツは、多少なりとも観客に正気を失わせるからである。 日本にも例がある。皆様ご存知の甲子園。タイガースが四連敗した後の試合にも、五万三千人がスタンドを満員にし、連勝中と同じようにカットバセ!とやっている。関西人である私には好もしい風景だが、ときどき「このおっさん、おばはんらは正気か?」と問いたくなる。サッカーはたった一点で勝負の決まる場合が多く、なおさらである。 しかし(北京の決勝戦でやったように)日本国歌の吹奏にブーイングし、手製の日の丸を燃やすのは、やめてもらいたかった。粗末な指導者に導かれる粗末な十三億人が何を叫ぼうと勝手だが、せめて記憶力は持ってほしい。それとも彼らの歴史教科書には、昭和三十三年の「長崎国旗事件」は載っていないのか? 本誌五月号のこの欄にも書いたが、長崎のデパートで開かれた中国切手の展示会に一人の反共青年が来て、中国国旗をひきずり下ろした。中国政府はそれを国家への侮辱だと怒り、以後二十年間繰り返し日本政府に謝罪を求めた。北京、重慶などでの日本の国旗と国歌への侮辱を、報道官の「遺憾」で済ますつもりか? 瀋陽の日本総領事館構内に踏み込んで脱北者を連行した行為(主権侵犯)も、まだ謝っていないんだよ。

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