「ウィキリークス」中南米での波紋

執筆者:遅野井茂雄2011年1月18日

 告発サイトで米外交の機密情報が流出したことは、2000年以降左派政権が台頭する中で、中南米で失った影響力を回復しようとしてきたオバマ政権の中南米外交において、明らかにマイナスである。今後アメリカ外交への信頼の低下がまねく問題の大きさは計り知れないものがあろう。

 だが、中南米に関しこれまで公開された情報は、アメリカ政府が発表した外交方針に照らしてみれば想定される範囲での活動内容を示すものであり、驚きは少ない。むしろ外交政策との整合性を立証するものとして評価する論調もある(例えば、12月5日付スペイン、エル・パイス紙への米フォーリン・ポリシー誌編集長モイセス・ナイム氏の寄稿)。当面の政治的余波も、チャベス大統領がクリントン国務長官の辞任を求めたぐらいで小さく、米首脳がお詫び行脚をする中で、中南米諸国側も顔をしかめながらも慎重に対応しているというのが現状だ。

 国家関係が詰まるところは首脳同士の個人的関係という外交の原点に立てば、アルゼンチンのクリスティナ大統領やペルーのガルシア大統領のメンタルな問題や性格を、クリントン国務長官や大使が指摘した点などは、内容は常識的なこととはいえ、心理的にしこりを残すことはあるだろう。またチリの2009年の選挙戦の最中に行われた報告において、ピニェラ大統領(当時候補)について、航空会社ランの持ち株をインサイダー的取引で売り逃げ莫大な利益を挙げたことを、公開情報を基に総括しながらも、倫理や法律すれすれのビジネスを行っていると指摘している点などもそうである。

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