土俵際で繰り出した菅政権の最後の賭け

執筆者:青柳尚志2011年1月24日
財政でも外交でも鳩山路線との決別を狙うが……(外交演説を行なう菅首相)(c)時事
財政でも外交でも鳩山路線との決別を狙うが……(外交演説を行なう菅首相)(c)時事

 1月24日に始まった通常国会で、菅直人政権は土俵際の賭けに乗り出した。自民党案の丸飲みをも視野に入れた社会保障と税の一体改革、首相自身が平成の開国と位置付ける環太平洋経済連携協定(TPP)への参加。二兎追う者は一兎も得ずとなるリスクを覚悟で、一か八かの勝負に打って出ようとしている。  与謝野馨氏の入閣で民主党政権は別物になった。内閣改造前は仙谷由人官房長官が主導権をとった「仙谷・菅」政権だったのに対し、改造後は与謝野氏の経済政策を丸飲みする「与謝野・菅」政権といえる。官邸を去った仙谷氏の心中は穏やかではない。更迭、留任、最後は更迭、と首相の心が揺れ、その都度振り回されたからだ。  今回の改造を前に、首相には高揚感が見て取れた。市民運動の理論的指導者だった政治学者の篠原一氏が、政権獲得後のトランジション(移行過程)第2幕を唱えているのを知り、意を強くしたとされる。要は小沢一郎氏を切って、政治とカネの問題をスッキリさせて、清潔な政治という本来の民主党の姿に戻るということだ。

財政から見えてくる「破滅的新世界」

 小沢氏という敵を作り、政権浮揚を狙っているのは、いうまでもない。だが、街行く人は今さら民主党の内紛に関心を示していない。したがって、どんな政策を打ち出すのかが決定的に重要になるが、首相は社会保障と税、TPPの2つに焦点を絞ったかにみえる。とりわけ、前者には「政治生命を賭ける」とまで言っている。
 基本的な数字を押さえおこう。2011年度の政府予算案は92兆円だが、年金、医療、介護などの社会保障費は29兆円。全体の31%を占める。高齢化に伴って社会保障費は毎年約1.3兆円増えて行く。税収は41兆円なので、政府が手元に保有するおカネである埋蔵金を取り崩して、国債発行額を44兆円に抑えている。それでも補正後の予算を含めれば、3年連続で税収を国債発行が上回る。
 毎年、財政赤字を計上してきた結果、国と地方の借金は約900兆円となり、国内総生産(GDP)の2年分に相当する。来年の12年からは1947年から49年に生まれた団塊の世代が次々と65歳を超えて行く。その結果、年金の支払いはかさみ、さらに年を経るにつれて医療、介護の負担が鰻登りに増えて行く。
 こうした「破滅的な新世界」が控えているのがハッキリしている。だから、社会保障を極力抑制するとともに、それでも足りなければ消費税を引き上げるなどして、国家財政が破綻しないようにしなければならない。こうした議論に、正面から異を唱えるのは難しいだろう。

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