もはや悪者ではない好調・ドイツ経済の中身

執筆者:花田吉隆2011年2月21日
「ブランド力」が強みのドイツ経済(メルケル首相)(C)AFP=時事
「ブランド力」が強みのドイツ経済(メルケル首相)(C)AFP=時事

 ドイツ経済が好調だ。  世界は経済危機後、「拡散」と「収斂」の時代に入ったという。拡散とは、先進国経済の停滞が続く中、新興国経済が躍進を続け、先進国と新興国間の成長の差が広がっていることを意味し、収斂とは、その結果、世界がかつての南北問題を乗り越え所得均一化に向かいつつあることを意味する。そのスピードが如何にもめざましいので世界中がこの動きに目を見張っている。  その停滞する先進国の中で、1人ドイツだけが意気盛んだ。  ユーロ危機が世界を震撼させたのはつい昨年のこと、しかもこの危機はいつまた火を噴くか分からない。その不安定な欧州経済にあって1人ドイツだけが好調に嬉しい悲鳴を上げている。  ドイツの好景気がユーロ安による面は否定できない。危機によりユーロ安が進行し、それがドイツの輸出増をもたらした。しかし、この輸出増にはそれだけでは説明できないドイツ経済の強さが隠されている。

劇的に変わった輸出先

 数年前、通貨は逆にユーロ高だった。当時も好調だったドイツ経済のその先の見通しに関し、一部ではユーロ高がドイツ経済を冷やすだろうという悲観的な見方があった。これに対しドイツ政府は、ドイツの輸出はその多くがEU(欧州連合)域内向けであり、ユーロの変動は輸出に大きく影響しないと反論した。それが正しかったかどうかは別として、確かに輸出はユーロ高にも拘わらず好調を維持、ドイツ経済はその後も順調な推移を見せていた。
 ドイツ経済が大きく躓いたのは世界中が金融危機で大混乱に陥った時だ。ドイツは当初、バブル状態となっていたスペイン、アイルランド経済などへの波及はあるとしても、ドイツには影響がないと対岸の火事を決め込んでいた。だが、リーマンショックを機に火の手はドイツにも波及、工業製品の受注が急減し、輸出は急落、2009年は大きなマイナス成長を記録した。しかしその後政府の景気対策もありドイツ経済は力強く回復、先進国経済が依然弱々しさを見せる中、2010年の成長率は3.6%に達した。これは1992年以降最も高い数字で、2.9%の米国とは対照的だ。前年大幅な落ち込みを示した反動と言えなくもないがどうもそれだけではない。
 この景気回復の原動力となったのは輸出だが、重要なのはユーロ安もさることながらその輸出先だ。
 ドイツの輸出先はこの10年で大きく変わった。10年前、ドイツの輸出はEU域内と域外に対し、ほぼ4対1の割合だった。つまりかつてドイツ政府が反論した通り、ユーロの動向如何に拘わらずドイツは安定した輸出ができる構造だったのだ。それが、2009年には域内対域外比率がほぼ半々に変わった。つまり、輸出品の半分がEUの枠を越えて運び出されている。しかもその行き先は中国、ロシア、OPEC(石油輸出国機構)諸国といった躍進めざましい新興国である。域外輸出の中では、中国12.2%、ロシア6.8%、OPEC7.4%で、この3カ所で域外輸出の4分の1を占める。他がほぼ横ばいか減少で推移するなか、対中、露、OPEC輸出はこの10年でそれぞれ2.7倍、2.1倍、1.6倍に伸びている。
 つまり、ドイツはこの10年、かつてEU域内中心に輸出していた構造を徐々に中国等新興国向けに転換してきた。ここにドイツ経済好調の秘密がある。

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