賛否に揺れる「国際財務報告基準」受け入れの行方

執筆者:富山創一朗2011年2月21日

 会計の国際基準であるIFRS(国際財務報告基準)への日本の対応が、またしても揺らいでいる。すでに金融庁は、日本企業がIFRSを任意に適用することを認めているが、2015年をメドにすべての株式公開企業に強制適用する方向で、2012年に最終決断することになっている。ところが、ここへきて強制適用に反対する動きが急速に高まっているのだ。
 シンクタンクである東京財団が昨年12月、「日本のIFRS対応に関する提言」をまとめて公表した。提言の趣旨は「上場企業3800社への強制適用は『百害あって一利無し』であり、日本に大きな禍根を残すことになりかねない」というもので、スケジュールを白紙に戻すよう主張している。

反対論の裏に経済産業省

 提言の「検討メンバー」の筆頭には、岩井克人・東京大学名誉教授の名前があり、事実上の岩井レポートの形式となっている。岩井氏は『貨幣論』や『ヴェニスの商人の資本論』で知られる気鋭の経済学者。最近は会社論などの著作もあるが、企業会計は専門外だ。
 東大には、日本の会計基準を作る「企業会計基準委員会(ASBJ)」の委員長も務めた斎藤静樹名誉教授に連なる会計学専門家の流れがあるだけに、こうした“保守本流”の会計学者の間からも「なぜ岩井先生が会計にモノを言うのか」と訝しがる声が上がった。
 東京財団はこの提言をまとめただけでなく、メディア関係者を集めた連続懇談会も主催。IFRS反対のムードを拡げようと躍起になっている。
 なぜ突然、東京財団が「IFRS反対」の狼煙を上げたのか。
 一部の製造業経営者の間にはIFRSの強制適用に強く反対する動きがあり、これに経済産業省の担当者が同調しているのだ。当初は中小企業にまでIFRSを適用するのは問題だと主張していたが、中小企業には強制しないとの方針が固まるや、上場企業に対するIFRS強制反対へと一気にヒートアップした。会計制度を担当する金融庁は20年来の会計基準改革の流れの中で、IFRS受け入れへと動いているが、こうした流れに抵抗する一部の経営者が経済産業省の担当者を動かしている。
 実は東京財団のレポートをまとめた実質的な担当者も経済産業省出身。岩井教授はこの担当者との個人的な関係で担ぎ出された、というのが真相らしい。

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