ポルトガル危機で現出したEUの根本的矛盾

執筆者:田中直毅2011年4月1日
3月23日、辞任を発表したポルトガルのソクラテス首相 (C)AFP=時事
3月23日、辞任を発表したポルトガルのソクラテス首相 (C)AFP=時事

 少数与党が議会に年金削減案を提出したとしよう。投資家の信を繋ぎとめるためには、財政再建をするしかないからだ。ここでいう投資家とは、借り換え国債の買い手という意味だ。投資家不安が高まれば、国債はさばけない。政府は気が気ではなく、国民の手で選ばれた議会も当然のことながら超党派で国家の救済に踏み出してくれると考えたいところだ。しかし、年金給付額削減案の片棒をかついでも碌なことはないと受け止めるのが、選挙を控えた議員心理の実際である。そこで政府提出の緊縮策にはこぞって反対票を入れ、首相は責任をとってその職を辞した。これは日本の近未来小説ではない。今日のポルトガルのことだ。  ギリシャ、アイルランドに続いてポルトガルでも、財政赤字問題が経済の持続性を揺るがす事態が生じた。もしここでEU(欧州連合)がポルトガルに手を差し延べなければ、危機はスペイン、イタリアにまで及ぶ可能性が出てくる。ギリシャ、アイルランドの10年物国債の利回りは2ケタになっており、ポルトガルも8%にのった。スペインやイタリアは今のところ5%前後のところにとどまっているが、すでに高金利での借り換えの前途は容易なものではなくなっている。ポルトガル化がスペイン、イタリアにまで及べば……という疑念はすでにEUの全域に到達したといえよう。

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