東北金融「打撃の現状」と「復旧策」

執筆者:磯山友幸2011年4月24日
被害の全容はまだ分からない(仙台の荒浜地区)(c)時事
被害の全容はまだ分からない(仙台の荒浜地区)(c)時事

 東日本大震災による東北地方の金融機関経営への影響が徐々に表面化しつつある。仙台市に本店を置く第2地方銀行の仙台銀行は4月11日、「金融機能強化法」に基づく公的資金の申請の検討に着手すると発表。これに続いて18日には、東北最大の地方銀行である七十七銀行も公的資金の申請の検討に入ると発表した。  公的資金の申請理由について仙台銀行は「中小企業等のお客様に対し充分な金融仲介機能を提供し、大震災復興に向けた取組みに対する支援に積極的に取り組んでいく」としている。また、七十七銀行も「震災復興に向け国と連携して十分な資金供給をはかり、金融仲介機能を発揮していく」と発表した。つまり、地域金融機関の責務として金融仲介機能を発揮し、顧客企業などを支援するためには自己資本の強化が必要だ、という論理だ。

読み切れない「震災関連損失」

 銀行自身のためではなく、融資先企業のためという論理は、金融不安を煽らないための慎重な言い回し、ということだろう。だが現実には、震災によって金融機関の経営自体が大きく揺さぶられていることは明らかだ。
 七十七銀行では女川支店の行員ら12人が依然行方不明となっているほか、多くの店舗が地震や津波の被害に遭うなど、直接的な被害を蒙っている。店舗などで少なくとも15億円の被害が出ているという。同行の発表によれば、当初150億円の最終黒字を見込んでいた2011年3月期決算は、300億円の赤字に転落した模様だという。貸倒引当金を新たに550億円繰り入れたことが赤字の主因だ。同行の自己資本は2010年12月末で3500億円に過ぎない。300億円の赤字が経営に大きく響くのは間違いない。
 しかも、震災関連の損失がこれで済むとは考え難い。現実には貸出先の企業の多くが被災し、経営の実情が把握できないところも少なくない。同行の貸出額は3兆5000億円にのぼる。宮城県内の貸出金シェアの45%を握るが、それだけ地元企業への貸し出し依存度が高いということになる。当然、震災に伴う損失も大きくなる懸念が強い。震災から1カ月以上がたっても被害の全容は分かっておらず、銀行の損害額も到底確定できる状況にはなっていないのだ。
 金融庁は震災への対応として、金融機関に借入金の返済猶予やつなぎ資金の提供、預金引き出しの便宜などを図るよう要請している。同時に、金融機関の健全性を検査する際の運用を見直し、金融機関の貸出債権の評価の弾力化などを行なう通達を出している。
 例えば、貸出先の実態把握が困難な場合は、震災前に把握している情報で査定すればいいこととしたほか、震災による赤字・延滞を「一過性」だと判断すれば「不良債権」と認定しないでいいことにした。さらに、前3月期の決算を9月末までに提出すればよい特例を設けるとしている。つまり、銀行として損失の把握・計上を事実上猶予する措置をとったわけだ。

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