不透明感広がる中国自動車市場

執筆者:森山伸五2011年5月2日
4月の上海モーターショーは盛況だったが(c)時事
4月の上海モーターショーは盛況だったが(c)時事

 2010年に前年比32.4%増の1806万台に達した中国の自動車販売が今年に入って急減速し、市場飽和の予感が漂っている。東日本大震災の影響でアジア全体に景気不安感や部品の供給不足も広がり、中国の自動車市場に不透明感が出始めた。  中国の自動車販売は前年同月比で1月は13.8%、2月は4.6%、3月は5.4%と、2ケタ以上の伸びが続いた昨年に比べ減速が目立つ。小型車減税など政府による各種の優遇制度が相次ぎ撤廃されたのに加え、交通渋滞に悩む大都市が自動車の登録台数の制限を始めているからだ。北京市では今年のナンバープレート発給を昨年の3分の1程度に圧縮する方針で、自動車販売店の廃業も出始めているという。

毎年「ドイツ1国分」を増やせるか

 こうしたなかで、中国市場をグローバル競争の主戦場とみる世界の有力メーカーや中国の民族系メーカーは、生産能力の拡大のため強気の設備投資を続けている。各社の2015年までの増産計画では、上海GM(ゼネラル・モーターズ)と上海VW(フォルクスワーゲン)の合弁2社を2本柱とする上海汽車集団は10年の約360万台から600万台、ホンダ、トヨタの日系2社との合弁が中心の広州汽車は10年の72万台から15年には300万台まで増強する。民族系メーカーも比亜迪(BYD)汽車が約4倍増の200万台、奇瑞汽車が3倍増の200万台まで生産能力を増やす計画。結果的に15年の中国全体の自動車生産能力は4000万台にも達する可能性がある。
 販売が15年に4000万台まで増えるには11年以降、年率で平均17%増の勢いが必要になる。従来の中国市場の伸びなら、難なく届く数字だが、2000万台を超えてなお年率17%増やすには毎年300万台、400万台といった上積みが必要。それだけでドイツ1国分の販売台数にも匹敵する規模だ。
 中国の自動車普及台数はまだ人口1000人あたり40台弱で、米国の823台、日本の591台、ドイツの536台など先進国には遠く及ばない。その面では伸びる余地は大きく、「人口規模でみれば、保有台数は少なくともあと2億台以上増える」と中国の自動車専門家はみる。だが、先進国は人口の70-90%を占める中流層が自動車のユーザーとなっており、層が圧倒的に分厚いのに対し、中国の場合は同じ中流といっても、その厚みは社会の25-30%程度にすぎない。人口の過半を占める農民はまだマイカーを保有するような経済力もニーズもない。農民は当面、農産物の輸送などに使えるトラクターやその改造車、電動バイクなどが主力の乗り物だろう。中国では沿海都市部のホワイトカラーの一部にようやくマイカーブームが広がっているだけで、そこから先の内陸農民にモータリゼーションが広がるにはまだ半世紀かかるだろう。

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