日中のうねりを見守る東南アジア諸国

執筆者:田中直毅2011年5月11日

 ASEAN(東南アジア諸国連合)は、ただ単に地域内の経済統合に心をくだくだけでなく、世界に向けて秩序形成の能力を示そうとしている。その土台となるのが1997年に始まったASEAN+3(日中韓)という枠組みである。日本、中国、韓国の3カ国は、20世紀における歴史問題も絡んでいるところからASEANに仲介される形をとって、東アジアに共通する問題を同じ場で論ずるようになった。20世紀の最後の10年間は、ASEANも変化したし、また日中韓の3カ国もそれぞれに自らの位置づけを東アジアという枠組みで再問するようになった。この延長線上で5月4日に行なわれたASEAN+3の財務相会議で、中央銀行総裁も来年からは出席させることを決め、経済政策に関しての意思決定の共同化作業の第1歩を踏み出すこととなった。
 先月シンガポールに創設されたばかりの域内経済の監視機関「AMRO」(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office、マクロ経済リサーチ・オフィス)には金融危機防止の機能を担わせることを期待しつつ、事務局は中国と日本とが同じ比重で関与する枠組みもできた。G7やG20では、経済危機に際しての各国の役割が個別に論じられることが期待されてきたが、ASEAN+3でも同じ雛形が適用される可能性が出てきたのだ。G20といっても内部の異質性が余りにも目立ち、論点の集約がどこまで可能なのか、という問いかけが相次いでいるのが現状だ。ASEAN+3は経済規模ではすでに世界の約3割となっており、しかもSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)という一連の供給網がこの地域には張りめぐらされるようになっている。G7以外のG20に参加するメンバーには共通の背景があるわけではないので、意思の集約についてはASEAN+3の方が可能性が高いとさえいえる。中央銀行の参加は、為替政策についての論議をより明瞭にする可能性があるため、米国やEU(欧州連合)にとっても決して無視できない存在になるかもしれない。

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