きっと1989年11月、ベルリンの壁を打ち壊した時のドイツの若者たちのような気持ちなのかもしれない――。米東部時間の5月1日深夜、オバマ大統領がウサマ・ビンラディン殺害を発表した後、ホワイトハウス前やニューヨークの世界貿易センター跡地「グラウンド・ゼロ」近くに集まり、歓喜の声を挙げるアメリカの若者たちの姿。「ひとつの時代が終わった」。そんな若者の言葉を伝えるニュース映像を見て、思った。
 彼らは物心ついてから、あるいは思春期から、ずっとテロの恐怖と戦争が続く中で生きてきたのだ。アメリカがこれほど憎んだ人物は、ヒトラー以来だろう。実際、5月5日発売の米誌「タイム」はヒトラーの死の時と同様、ビンラディンの顔に大きな赤い「×」をつけて、表紙に掲げた。

奪われた子ども達の「純心」

 しかし、実際のアメリカ人の心はもっとニュアンスに富んでいた。小学5年の時、9.11で投資銀行に勤めていた父親を失った大学生は米「ニューズウィーク」誌への寄稿で言う。ビンラディンが死んだとニュースで聞き、母親と一緒に抱き合って、喜んだ。でも「その気持ちはうまく言い表せない。人の死を祝っているとは言いたくない。何かが終わったという気もしない……重しがなくなったような気分」。【If My Dad Were Still Here, Newsweek, May 5】「ワシントン・ポスト」紙の女性コラムニスト、ルース・マーカスは「暗くて重たい喜び」を感じたという。9.11で家族を失った人々、マンハッタンの変わり果てた風景を思う。何よりも当時4歳だった末娘がテロの恐怖に怯え続けたように、子ども達から「純心」が奪われたことを悔やむ。【A triumph, in full bloom, The Washington Post, May 4】その後アフガニスタン、イラクで始まった戦争で、両国の市民も含め多くの命が失われた無念を思うと気も晴れない。そんな悲しみを語る9.11犠牲者の家族もいる。「大国主義、強欲な企業文化、腐敗した外国政権への支援。これらが生んだアメリカ嫌悪は続く」。家族を失った精神医学の大学教授の寄稿だ。【My Sister, My Grief, The New York Times, May 3】

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