原発事故の先にある剣呑な国際政治の力学

執筆者:青柳尚志2011年5月26日
終始笑顔だったが……(c)AFP=時事
終始笑顔だったが……(c)AFP=時事

 5月26日からフランスのドービルで開かれた主要8カ国(G8)首脳会議(サミット)。主催国フランスのサルコジ大統領の肝いりで、原子力サミットとなった。福島第一原子力発電所の事故がきっかけだが、菅直人首相は被告席に立たされた。  フランスの狙いは、サルコジ大統領の再選戦略と密接にからむ。失業問題などで世論の支持が低迷するなか、国際舞台での派手な立ち回りと外交上の勝利が欠かせないからだ。国内の電力の7割を原子力に依存するフランスとしては、何よりも福島の事故を機に高まる反原発のうねりを抑える必要がある。そのために、フランスは国際的な原発の安全基準をつくることを働きかけている。  地球温暖化問題に取り組もうとする米国のオバマ大統領も、原発推進の選択肢を捨てたくない。英国やイタリアもしかり。反原発を掲げる緑の党に脅かされているドイツを除き、G8内では直ちに脱原発に舵を切ろうという国はない。そのドイツでさえフランスの原発でつくった電気を融通してもらっている。菅首相の冒頭演説はこの辺りの国際環境を反映したものになった。

安全基準で商機を狙うフランス

 フランス主導の安全基準づくりは、今回のG8サミットで話し合った後、6月には新興国も交えた20カ国・地域(G20)の関係閣僚会議を開き、11月にカンヌで開かれるG20サミットで華々しく打ち上げる。サルコジ大統領はそんな工程表を描いている。
 何しろ2012年の仏大統領選で最大のライバルとみられていた、社会党のストロスカーン国際通貨基金(IMF)専務理事が性的暴行などの容疑で起訴されたにもかかわらず、サルコジ氏の人気は一向に浮揚しない。右翼政党・国民戦線のルペン候補の後塵をも拝し、決選投票に残れないのではとの見方もあるほどだ。名前を売れる機会があれば、何でも利用したいのが大統領の本音だろう。
 安全基準作りは単に、反原発の世論沈静化を狙っているばかりではない。今、世界にある有力な原発メーカーは、ゼネラル・エレクトリック(GE)と日立製作所の連合、ウエスチングハウス(WH)を買収した東芝、そして三菱重工業と提携している仏アレバである。原発の世界では、日米連合とフランスが2大勢力といってよい。
 日本勢は痛手を負った。新興国などに売り込む際にも、「あのフクシマの」と後ろ指をさされるのは避けられまい。これに対し、アレバ製の原発はコストが高い反面、安全性で優れている、とフランスは売り込みに余念がない。国際安全基準もそんなフランス仕様に合わせたものにすれば、アレバ製の原発は高度の非価格競争力を得ることができる。日本の経済産業省などは、こうした動きに神経を尖らせているが、どこまで巻き返せるか。菅首相ではいかにも頼りない。

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