クレタ島出身の哲学者エピメニデス(紀元前600年)が、「クレタ人は皆嘘つきだ」と言った。「エピメニデスもクレタ人なのだから、その言は嘘であり、クレタ人にも嘘つきでない人もいる」と解釈すれば、論理的な破綻は無い。この原型は、「私は嘘つきだ」という自己言及のパラドクスにある。しかしながら、「私は嘘つきだ」という人に対して、「あなたは正直者ですかと問われたらハイと答えますか」と訊くことがパラドクス破りとなる。論理学によくある頭の体操であるが、これを安全保障に置き換えて、「あなたの国は我が国の味方ですかと問われたら、正直にハイと答えますか」と外務交渉で質問し、「本国に一度持ち帰って検討のうえ回答願いたい」と言ってみたいと思う。

 「味方の敵は我の敵」であり、「敵の味方は我の敵」である。それらが真であるならば、「敵の敵は我の味方」となるのは論理の世界であって、現実には「敵の敵は必ずしも我の味方かどうか判らない」のである。そこにエピメニデス流の疑似パラドクスを見ることができる。

 サンフランシスコ平和条約が1951年に締結され、それと時を同じくして、日米安全保障条約すなわち日米同盟が成立した。日米同盟は、それ以後60年間、日本の安全保障戦略の基軸になってきた。この二国間関係が発祥する時、日本から「お願いします」と言って米国に擦り寄ったという歴史的形跡は無い。

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