オバマ米政権は「サイバー戦争」の体制整備を「最優先事項の1つ」として、強力に推進する構えを見せている。
 2009年1月に政権に就いた直後、オバマ大統領は「サイバー空間政策」の見直しを指示(本誌2009年7月号)、2010年10月にはサイバー司令部を本格始動させた。
 その間、インターネット検索大手、グーグルなど民間企業だけでなく、米政府のコンピューター網も「中国から行なわれているとみられる」(グレグソン前米国防次官補)サイバー攻撃を受け続けてきた。
 ウィリアム・リン国防副長官によると、米国に対するサイバー攻撃はこの10年で大幅に増加、「100カ国以上の外国情報機関が米国のネットワークに対する侵入を試みている」ほど。サイバー攻撃能力を持つ国は中国やロシアだけではなく、アル・カエダやハマス、ヒズボラなどのテロ組織までが米国に対するサイバー攻撃の意図を表明している。2008年までに世界でサイバー犯罪で盗まれた知的財産は1兆ドルものレベルに達している。

「攻撃」には「報復」を

 こうした状況に対して、オバマ政権は今年5月「国際サイバー空間戦略」を発表した。この戦略は、外交面では「開放的かつ安全なサイバー空間の構築」を目標とし、同盟諸国の理解を深める。インターネットの自由を掲げ、規制を続ける諸国に対して圧力をかける狙いもある。また、開発面では「開放的かつ安全なサイバー空間の拡大」により、各国が自由なインターネットの利用によって利益を確保できるようにする、といった目標を掲げている。
 しかし、安全保障上の新しい課題はサイバー攻撃に対する防衛である。この戦略では、「テロリストやサイバー犯罪者、あるいは国家およびその代理人の脅威からネットワークを守る」ため、同盟諸国などとの協力を強化する立場を打ち出した。「ネットワークやシステムを断裂しようとする者と敵対し、悪意を持ったアクターを抑止するとともに、こうした死活的な国家的財産を守る権利を留保する」というのだ。
 次の段階では、6月中に米国防総省が発表する「サイバー空間作戦戦略」が大きい注目を集めるだろう。この中で、米国はサイバー攻撃が深刻な被害をもたらした場合、「戦争行為」とみなし、「報復」として、反撃するという新しい方針を打ち出す。交戦規定なども検討するというのだ。
 そのためには、米国はネットワークの防衛を強化しなければならないし、さらにその「防衛」および「攻撃」の任務に当たる「サイバー戦士」も養成しなければならない。
 昨年発足したサイバー司令部は、戦略軍司令部の傘下に置かれ、制服組464人、文民467人。その統轄下に、陸軍サイバー司令部、海軍第10艦隊、第24空軍、海兵隊サイバー司令部がある。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。