後に振り返れば2011年の初夏は、85歳のエリザベス英女王にとって、元首としての役割を最大限に果たした最後の大舞台、と言われるようになるかも知れない。
 4月末、王位継承順位では第2位のウィリアム王子のロイヤル・ウェディングと大レセプションをとり仕切った。5月中旬には隣国アイルランドを、その独立(1937年)以来初めて英君主として訪問した。5月24-26日にはオバマ米大統領夫妻を国賓として迎えた。1カ月に3つの重要行事。女王には、それらを英国の元首として細心かつ威厳をもってとり行なうことが求められ、気の休まる間もなかっただろう。

混乱なく終えたアイルランド訪問

 ロイヤル・ウェディングは先月のこの連載で紹介した。アイルランドとは歴史問題や北アイルランド紛争を抱え、真の和解を達成できずにいたが、やっと女王が訪問する環境が整った。それでも訪問時には反対デモなどの混乱が心配された。
 女王は首都ダブリンにある独立の戦いで亡くなった人々の記念碑に花束を捧げ、長いこと黙とうした。この模様は現地でテレビ中継され、アイルランドの人々の英国に対するわだかまりを解くのに大きな効果があったといわれた。その夜の歓迎晩餐会で女王はアイルランドのマカリース大統領と共に新しい両国関係を祝って乾杯した。4日間の滞在中、大きな混乱もなく、無事訪問を終えた。
 そして残る大仕事は米大統領の訪問だった。米大統領が国賓として訪英するのはエリザベス女王即位(1952年)以降2度目で、2003年11月のブッシュ大統領以来。ブッシュ大統領の時は両国が主導したイラク戦争が終わり、互いの協力をねぎらう意味付けがあった。
 今回はむしろ英国が米大統領の訪問を強く望んだ。両国の歴史的な「特別な関係」が薄れ、外交的にも昨年の英BP社によるメキシコ湾での原油流出事故や、英政府がアフガン駐留英軍の撤退を今年から開始する方針を示し、ぎくしゃくしている。新興国の台頭と多極化する世界で、最高レベルで両国の「特別な関係」を再確認したいとの思いが英国にはあった。手厚いもてなしが、そこここで窺えたのも当然のことだった。

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