中国の深慮遠謀

執筆者:平野克己2011年6月20日

 先回「京都メカニズムでもっとも得をするのは中国だ」と書いた。中国は世界最大の商品生産国で、世界最大のCO2排出国である。また世界最大の商品輸出国でもあって、中国でつくられたものの4割は国外で消費されている。
 世界の製造業は中国製造業の拡大によって過剰生産過当競争の傾向を強めているが、中国政府は8%水準の経済成長を維持する方針だ。経済成長率が鈍ると社会不安が懸念されるからである。もしこれが、一党独裁という政治体制は低い成長率に耐えられないという懸念ならば、ほんらいは政治体制が変わらなくてはならないという要請なのであるが。
 中国GDPの40%は製造業が稼いでいる。こんなに高い製造業比率は世界のどの国にもみられない。日本で製造業比率がもっとも高かったのは高度成長末期の1970年だが、そのときでさえ36%だった。1970年が日本にとって公害元年だったように、いま中国は環境問題とエネルギー効率の改善に取り組まなくてはならない経済的社会的要請に直面している。

 京都議定書にある排出権取引の仕組み、つまり京都メカニズムは、中国が直面しているそのような状況にとって、願ってもない有利なものなのである。いや、むしろ京都メカニズムは、中国におけるCO2削減をその目標のひとつにしていたとさえいえる。環境技術が普及しているために国内排出量の削減が頭打ちの日本のような国は、開発途上国に出かけていって環境技術を提供することで大幅削減を実現し、削減義務のない途上国をカバーすることで世界全体のCO2排出を抑制する。そういう算段だった。中国の環境白書『中国の気候変動政策と行動』にはこうある。「京都議定書は‥‥もっとも権威のある、普遍的かつ全面的な気候変動対応の国際的枠組みである」「先進国は‥‥途上国に資金を供与し技術を移転する‥‥義務がある」。

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